最新記事

メディア

アメリカには公平中立な報道機関「BBC」が必要だ

THE UNITED STATES NEEDS A BBC

2021年2月19日(金)18時00分
エリザベス・ブラウ

当然、こうした報道では幅広い信頼は得られない。アメリカ人の56%がBBCの報道を信頼し、60%がローカルテレビ局のニュースを信頼している一方で、全米規模のテレビ局では最も信頼されているCBSとABCでさえ、その割合は51%にすぎない。NBCおよびMSNBCは49%、CNNは47%だ。

ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を信頼しているアメリカ人は52%、ニューヨーク・タイムズは50%、ワシントン・ポストは48%だが、この3紙のウェブ版は有料で誰でも読めるわけではない。公共放送のナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)を信頼する人は49%だが、コンテンツも予算もBBCに遠く及ばない。

イギリスではここ数年、BBCの信頼度が下がっている。それでも、オックスフォード大学の調査ではイギリス人のうち中道派の70%、特定の政党の支持者の63%、特定の政党の強固な支持者の47%がその報道を信頼していた。

ヨーロッパの公共メディアも大半はBBCと同様、市民に信頼されているが、信頼度は若干下がりつつある。

アメリカの場合は明らかに、公共メディアを増やすことが改善につながる。60%の市民が中立な報道を求めているという事実は大手メディアも議会も無視できないはずだ。

公共メディアを育てよう

そこで大胆な提案をしたい。フェイスブックなどSNS運営会社、テレビ局、新聞社、そして政府が共同出資して公共メディアを立ち上げてはどうか。目指すは公平性をモットーとし、質の高いニュースを届ける非営利のメディア。加えて、誰でも無料で視聴・閲覧できることが条件だ。

併せて地方メディアへの支援も必要だろう。アメリカにはざっと9000の地方紙があったが、2005年から20年までに、実にその約25%が経営破綻した。SNS運営会社と全米規模のメディアが共同出資し、議会が監視する基金を設立して経営難の地方紙を救済し、新規の起業を支援することが急務だ。

既成メディアも報道の質を高めることはできる。有効な方法の1つは、ニュース番組や記事の制作現場を市民に見てもらうこと。既成メディアに批判的だった人も現場の奮闘ぶりを見れば考えが変わるだろうし、制作側も人々の生の声を聞くことは励みにも刺激にもなる。

想像してみてほしい。正確性や公平性が担保された質の高いニュースに、アメリカ人がいつでもアクセスできるようになったらどうなるか。

もちろん自分の考えを裏付けるような情報ばかりを求める人もいるだろう。だがデータを見る限り、それは一部にすぎない。

公共メディアはすぐには実現しないかもしれないが、視聴率至上主義の偏向報道が対立と分断を招いたのは明らかだ。オックスフォード大学の調査を見ると、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか党派色の強いニュース番組やニュースサイトの視聴率やページビューは減っている。

無理もない。危機のさなかに求められるのは正確な情報であり、信頼性の高いニュースなのだから。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2021年2月23日号掲載>

20241217issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月17日号(12月10日発売)は「韓国 戒厳令の夜」特集。世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中