最新記事

大統領弾劾

トランプ弾劾裁判、弁護団が展開する8つのトンデモ反論

TRUMP’S CRAZY DEFENSES

2021年2月9日(火)18時20分
ジェレミー・スタール

バイデン大統領の就任式にあえて出席せず、トランプはフロリダ州の別荘に向かった CARLOS BARRIA-REUTERS

<依頼人トランプの言いなりになった弁護人たち──提出された弁論書には、開いた口が塞がらないクレイジーな言い草が>

フロリダ州の豪邸に立てこもる前大統領ドナルド・トランプの弁護団が先頃、上院での弾劾裁判に向けた弁論書を提出した。

そもそもトランプの容疑は、1月6日の支持者による米連邦議会議事堂襲撃について「反乱を扇動した」という内容。これに反論するのは難しいが、当初の弁護団が全員辞任したことで、対応は一段と困難になっていた。「この選挙は盗まれた」という従来の主張を維持するよう迫るトランプに、弁護団が愛想を尽かしたらしい。

やむなくトランプは、ちょうど仕事にあぶれていた弁護士2人を探し出して雇った。1人はかつてコメディアンのビル・コズビーを性的暴行罪で訴追しないと決断し、逆にコズビーのレイプ被害者を自分への名誉毀損で訴えた元検事。もう1人はロシア疑惑でトランプの元側近ロジャー・ストーンの弁護を担当した人物だ(ストーンは有罪が確定したがトランプが恩赦)。

弁論書でこの2人は、自分たちの依頼人が大統領を務めた国の名前のつづりを間違えている。どう見ても最強のコンビとは思えない。さらに、彼らの弁論書を読んでみると、依頼人からこんな主張をしろと求められたら弁護士が逃げ出すのも当然と思えるような内容だ。1回目の弾劾裁判の弁護団が誰一人2回目に参加していないのも無理はない。

弁論書の要点は8つ。いずれもクレイジーだが、ここではトンデモ度の低い順に紹介しよう。

トンデモ度8位「法的根拠がない」

既に退任した大統領に対する弾劾は無効とする主張だ。

そもそも弾劾の目的は大統領の解任にあるが、既に退任した大統領を改めて辞めさせることは不可能であり、従ってこの裁判は無意味ということだ。どんな弁護士でも一度は試してみたくなる主張だし、これなら陪審員役を務める共和党上院議員の大多数も賛成しやすい。この主張が通れば、トランプ無罪の評決になる可能性が高い。

弁護団によれば、「第45代大統領はもはや大統領ではない」から罷免することは不可能であり、弾劾の手続きは「憲法に照らして明らかなように法的に無効」だ。

それなりにまっとうな主張にみえるかもしれないが、笑止千万。弾劾裁判に詳しいフランク・ボーマン(ミズーリ大学法科大学院教授)に言わせると、これなら共和党議員はトランプを断罪することなく「法的な手続き問題」を根拠に無罪の一票を投じることができる。だが実際には、退任後の公職者が裁かれた例は過去にもある。昔の史料を見ても、建国の父たちは退任後の公職者も弾劾可能だと考えていたことが分かる。

なお下院の弾劾管理人(検事役に相当)たちは自らの弁論書で、退任直前の時期に大統領が犯した罪を問えないのはおかしいとして、「退任まで残り数週間という時期に大統領がクーデターを企て、あるいは武装蜂起を扇動しても罪に問わないとするような例外規定は憲法に存在しない」と論じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

VW、コスト削減に人員削減と工場閉鎖は不可避=ブラ

ワールド

パキスタン首都封鎖、カーン元首相の釈放求める抗議デ

ワールド

北海ブレント、25年平均価格は73ドルの見通し=J

ワールド

トランプ氏の新政権人事、トランプ・ジュニア氏が強い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中