「中国に甘いバイデン」は誤解、対中改善しようにも手は限られている
CAN BIDEN RESET CHINESE RELATIONS?
バイデン政権の対中戦略の成否は、対決と協力の二正面作戦が機能するか否かに懸かっている。面倒な政策課題はひとまず脇に置き、別な政策課題で歩調を合わせればいいのだが、それを実行するのは絶望的なほどに難しい。バイデン政権発足後しばらくは蜜月が続くとしても、その後に安全保障面でも貿易面でも関係が急速に悪化する可能性はある。そうなったらアメリカ側でも中国側でも、是々非々の対応を説く現実主義者の出る幕はなくなる。
だから当面、中国側はバイデン政権の出方を見極めようとするだろう。アメリカ側が協力を求めれば、取りあえず応じる。反米プロパガンダをトーンダウンし、今後数カ月のうちにバイデン政権に外交的な探りを入れ、関係修復への意欲を示すだろう。
トランプ政権の科した経済制裁や中国企業排斥の大部分が政権交代後も続くことは、中国の指導部も承知している。それは計算済みだが、そうした対決姿勢のエスカレートを一時的にでも止めることができれば、中国側の利益となる。
本音を言えば懲罰的関税を全て撤廃させ、新たな貿易協定を締結して長期的に良好な関係を築きたい。それが中国側の望みだが、現状では民主党にも共和党にも根深い反中国感情があること、それを乗り越えるのが至難の業であることを、中国側は理解している。
中国にとって最も望ましいのは、気候変動や新型コロナウイルス対策、さらに核拡散防止などの課題では協力関係を築きつつ、経済や外交、安全保障面での緊張関係を今以上に悪化させないことだ。
米中冷戦を一時停止し、共通の脅威、とりわけ気候変動の問題に対処しながら、直接的な軍事衝突を回避する。皮肉な話だが、少なくともこうした点では両国の短期的な利害が一致している。
バイデンがEUや日本、韓国を含む広範な反中連合の構築に成功した場合、中国側に勝ち目がないことは習近平も理解している。だからこそアメリカと同盟諸国の間にくさびを打ち込みたい。例えば気候変動をめぐる国際的な対話の場では自国の経済力と発言力を武器に日本やEUを抱き込もうとするだろう。
昨年末には15カ国で構成する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉をまとめ、EUとの包括的投資協定でも合意した。アメリカがもくろむ中国の経済的孤立化に対抗する上で大きな成果と言える。
デカップリングの流れは続く
アメリカの政界にバイデン流の多国間主義が定着する保証はない。中国側はこの点を強調して、アメリカの同盟国を揺さぶってくるだろう。トランプ主義が消えるわけではないし、オープンな国際秩序を維持する上でアメリカは信頼できるパートナーではない、アメリカに味方して中国の敵になるのは愚かなことだ、と中国の外交官は訴えるだろう。