最新記事

バイデンvs中国

「中国に甘いバイデン」は誤解、対中改善しようにも手は限られている

CAN BIDEN RESET CHINESE RELATIONS?

2021年1月22日(金)17時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

magSR210121_Biden3.jpg

台湾(写真は蔡英文総統)との距離感は変わる ANN WANG-REUTERS

ただし台湾問題については、緊張緩和のシグナルを送る可能性が高い。バイデン政権の国務長官に指名されたアントニー・ブリンケンは昨年7月のブルームバーグとのインタビューで、台湾の民主主義を守るためにバイデンは助力を惜しまないと述べた上で、こう指摘している。「皮肉なもので、こと台湾に関してはアメリカも中国も過去数十年間、実にうまく対処してきたと言える」

外交官らしい微妙な言い回しだが、要するに台湾との関係はトランプ政権以前の状態に戻し、現状維持を最優先するということだろう。既にトランプ政権が台湾に大量の兵器を売却している以上、改めて中国政府の怒りを買うような兵器売却を承認することもないだろう。

いずれにせよ、中国との間で台湾をめぐる新たな軍事紛争を避けたければ、バイデン政権は微妙な綱渡りを続けなければならない。まずは「一つの中国」という伝統的なアメリカ政府の立場に変化はなく、台湾の「独立」は支持しないということを中国に伝え、安心させなければならない。その一方、中国が台湾に対して軍事力を行使すればアメリカは断固として対応するということも、習近平(シー・チンピン)国家主席に明確に伝えなければならない。

バイデン政権発足から数カ月の間に起きる最も重大な変化は、外交的な対話ルートの復活だろう。双方が大物の特使を起用し、気候変動や新型コロナウイルス、核不拡散といった問題を協議することになろう。

言うは易しの外交戦略

他方、以前から同盟関係にある欧州やアジア諸国との連携を強め、アメリカの対中戦略への理解を求めることも必要だ。就任早々に、バイデンがリモート会議で各国首脳と親密な協議をするのは間違いない。

国力の強化、広範な共同戦線の構築、対決と協力の二正面作戦というバイデン政権の基本戦略は、机上では長期的に有望な戦略に思える。だが実行するのは容易ではない。内政面の改革と新規投資によるアメリカの再建という構想には、旧守的な共和党からの反発も予想される。

選挙で負けたとはいえ、一国主義と保護主義と排外主義を掲げるトランプ政治が4年間続いた以上、同盟諸国がアメリカとの関係改善に慎重になるのは必至だ。現にEUは昨年末、アメリカの反対を押し切って中国との包括的投資協定で基本合意している。今や経済面の結び付きに関する限り、アメリカよりも中国とのパイプが太くなっている国は少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中