トランプ政権最後の死刑執行、阻止に向け動いた人びとの苦闘
大半の国で死刑はすでに廃止されているが、ピュー・リサーチ・センターが2018年に行った調査によれば、米国民の54%は殺人事件の場合の死刑を支持している。2019年、トランプ政権のウィリアム・バー司法長官(当時)は、執行再開を発表し「我々は犠牲者とその遺族から、わが国の司法制度が科した刑罰を執行する責任を託されている」と述べている。
刑務所における死刑執行に反対する人の多くは、テレホート・マリオットに滞在している。14日も例外ではない。被告側弁護士、抗議活動家、ヒッグス死刑囚の家族は皆、三々五々マリオットのドアを開け、ゴテゴテした緑のカーペットが敷かれ、有線放送のソフトロックが流れる退屈なロビーで顔を合わせる。
ヒッグス死刑囚の姉は、ロビーで宗教指導者と話をしている間に泣き崩れてしまった。
やがて携帯電話が鳴り、ノーラン氏はロビーのテーブルから立ち上がった。最高裁判所からの電話だと、携帯電話からは「登録されていない相手です」との音声が流れる。相手は裁判所の事務官で、ヒッグス死刑囚の執行に向けていくつか残っている障害の1つを解消するための新たな政府申立てに、ノーラン氏がいつ回答するかを尋ねる用件だった。
ノーラン氏は、彼のチームが執行延期を勝ち取るチャンスがあるとすれば、まさにこの夜執行される予定のコーリー・ジョンソン死刑囚と連携した最高裁判所への申し立てだと考えていた。
2人とも昨年12月にCOVID-19陽性と診断されていた。下級裁判所は、現代の大半の薬物注射による死刑に用いられるバルビツール酸系催眠薬であるペントバービタルを肺に満たし、刑を執行する際に、死刑囚が恐怖を感じる可能性があることに同意していた。
弁護団は、この執行方式が「残酷で異常な刑罰」を禁じた憲法の規定に違反していると主張し、控訴裁判所により覆された下級審による執行猶予命令を最高裁判所が復活させることを願っていた。
弁護団の仲間が寝るために部屋に向かうと、ノーラン氏はロビーに戻って軽食の容器やビールの缶を片付けた。メールが届いたのは午後9時50分だった。最高裁判所はジョンソン死刑囚の弁護士による申し立ての未処理分をすべて棄却していた。COVID-19感染を理由とするヒッグス死刑囚との共同申し立ても例外ではなかった。
ノーラン氏はしばらく黙り込み、「不吉な前兆だ」とつぶやいた。
だが、ヒッグス死刑囚にはまだ、最高裁判所が結論を出していない申し立てがもう1件あった。ノーラン氏は何とか楽観的になろうと努め「明日も、何か成果が得られないか戦いを続けてみる」と語った。
抗議行動の「聖地」
同じ夜、死刑が執行されるたびに抗議のためにテレホートを訪れる小人数の活動家グループが、刑務所のゲートに向かう側道に近い、いつも利用するコンビニエンスストアの駐車場に集まっていた。ここで彼らは、「EXECUTE JUSTICE NOT PEOPLE(死刑ではなく正義を執行せよ)」など、死刑廃止を求める大きな看板を据え付ける。
インディアナ州の修道会から来たカトリック尼僧のバーバラ・バティスタさんは「ここは聖地だ」と話す。20数人のメンバーは寒さをしのぐため帽子を被り、フードを上げて、木の下に寄り集まっている。道の向こうでは、刑務所の巨大な施設が投光器の光を浴びている。
バティスタさんを含む一部の抗議活動家は、専用の監房に収容された死刑囚に教誨師(きょうかいし)として寄り添ってきた。経営学の教授でもあるユスフ・ヌアさん(65歳)は、イスラミック・センター・オブ・ブルーミントンの理事として14日の抗議に参加した。だが、もし死刑が執行される場合には、15日には執行室に入り、収監中にイスラムに改宗したヒッグス死刑囚に付き添う覚悟を決めている。