EU復帰はあり得ない──イギリスの将来を示すスイスの前例
We’re All Brexiteers Now
1992年のスイス国民投票で欧州経済地域加盟が否決された後、改めて賛意を示すデモ MONIQUE JACOTーGAMMAーRAPHO/GETTY IMAGES
<今後数十年でイギリス経済が受ける打撃と、EUに対する態度がどう変わるかは、1992年に加盟の道を自ら閉ざしたスイスを見れば分かる>
30年後のイギリス政治を想像してみよう。政府は二酸化炭素排出量実質ゼロを達成し、勝利を宣言しているかもしれない。議会はオートメーション化による大量失業に対処するため、最低所得保障を承認しているかもしれない。
だがブレグジット(イギリスのEU離脱)を果たしてから30年後のこの国で、EUへの復帰が議論されていることは、まずあり得ないだろう。
むしろ政治家は、誰がEUに対して最も強腰に出られるかを競っているはずだ。EU残留派は化石のような存在となり、イギリスは誰もがEU懐疑主義の国になっている。
なぜそう言えるのか。スイスを見れば分かるからだ。
スイスは1992年の国民投票で、有権者の50.3%が欧州経済地域(EEA)への参加に反対した。EUとの経済関係を続ける手段は、1972年に締結された古い自由貿易協定(FTA)しか残されていなかった。EU内の競合国に比べればEU市場へのアクセスは限られ、手続きは煩雑で費用もかかり、多くの輸出業者が競争力をそがれた。
その結果が10年に及ぶ低成長だ。競争力を求めた輸出業者は、生産拠点をEU加盟国に移した。1990年代初頭には不動産バブルの崩壊が招いた金融危機が、スイス経済に一層の打撃をもたらした。今では信じ難いが、1992〜2002年のスイスの成長率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最低レベルだった。
保護主義とコロナの傷
当時のスイスと同じく今のイギリスも、バラ色とは言えない見通しに直面している。ブレグジットに際して最終的に合意された通商協定は、スイスが1972年に締結したFTAをわずかに発展させた程度のものだ。EUに輸出するイギリス企業は今後、生産拠点を徐々にEU加盟国へ移すことになるだろう。
しかもイギリス経済が受ける打撃は、1990年代のスイスより深刻なものになる可能性が高い。理由は3つある。
第1に1990年代以降に市場が拡大したことで、EUは保護主義を強めている。特に金融サービスについては規制を統一し、第三国の事業者を締め出した。今後はイギリスも「第三国」に含まれる。
第2に今のイギリス経済は、1990年代のスイス経済より脆弱だ。GDPに占める設備投資の割合は、イタリアと同レベル。生産性の向上率が横ばいなのも、低収入の仕事が多いのも、輸出部門が長年低迷しているのもそのためだ。イギリスは国内消費への依存度も、イタリアやスペインより高い。