最新記事

アメリカ政治

議会突入の「戦犯」は誰なのか? トランプと一族、取り巻きたちの全内幕

The Roots of the Capitol Riot

2021年1月18日(月)16時20分
ビル・パウエル(本誌記者)

magw210118_Trump5.jpg

イバンカとクシュナーは不正をめぐる戦い方には慎重だった CARLOS BARRIA-REUTERS

テキサス州はイーストマンの主張を根拠にミシガン州やペンシルベニア州などの選挙人票を無効とするよう連邦最高裁に訴えた。イーストマンが原告側弁護人となり、トランプも原告団に加わろうとしたが、最高裁はこの訴えを退けた。テキサス州が他州の選挙人票の正当性に異議を唱える資格がないのは明らかだ。

「こんな訴えが受理されるわけがない。バカげている」と、元法律顧問は吐き捨てる。

法廷闘争が行き詰まるなか、トランプの政治顧問たちはあることに気付いた。「盗まれた選挙」の訴えは政治的に利用できる、ということだ。

トランプの「4年後の大統領選出馬に向けた地ならしになると、誰かが言いだしたわけではないが、誰もがそう思っていた」と、ホワイトハウスのスタッフは認める。

主流派メディアは選挙不正の訴えを「根拠なし」と切り捨てたが、12月初旬の世論調査では共和党支持者の77%が選挙は「不正操作された」と信じていた。トランプは4年後をにらんで今回の選挙の不正を訴え続ける覚悟を固めた。

だからこそ12月1日にホワイトハウスでクリスマスパーティーを開いたとき、支持者に向かってこう言ったのだ。「われわれはあと4年務めようとしているが、それがかなわなければ4年後に会おう」

聴衆は歓喜し絶叫した。

12月末までは、トランプ陣営から見れば、その政治戦略はうまくいっていた。選挙結果に異を唱えるトランプを彼の支持基盤は団結して支持していた。しかし訴訟戦略は揺らいでいた。トランプ側が全米からかき集めた「不正」は実体のないものばかりで、大半がイーストマンの指摘どおり、証拠うんぬんではなく手続き上の理由で却下された。

12月18日、フリンは再びホワイトハウスでの会議にパウエルを同行。トランプは彼女を選挙不正を捜査する特別検察官に任命するつもりだったが、マーク・メドウズ大統領首席補佐官らが強く反対。電話で参加したジュリアーニも反対した。会議は紛糾、怒号が飛び交った。パウエルはトランプに選挙結果を覆す戦いを「放棄」するべきではないと力説したが、結局トランプは任命を断念した。

トランプはフロリダ州の別荘で家族とクリスマス休暇に入ったが、彼の頭の中では選挙不正をめぐる戦いがピークを迎えていた。毎年恒例の新年のパーティーも取りやめ、12月31日にワシントンに戻った。(新型コロナ関連の追加経済対策に盛り込む)1人2000ドルの直接給付金を推進しているとアピールするためでもあったが、「主に上下両院の議員たちに『6日』の件でハッパを掛けたかったからだ」とある選挙参謀は言う。

「6日」とは大統領選の投票結果を認定する1月6日の上下両院合同会議──バイデンの勝利確定の最終プロセスだ。複数の消息筋によれば、イーストマンは(上院議長である)副大統領にはペンシルベニアなど接戦州の集計結果を認めず州に差し戻す権限がある、とトランプを説得。バノンは自身のポッドキャストで、ジュリアーニら弁護士が不正の証拠を握っており、ペンスは「正しいことをする」べきだ、と主張し続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、台湾総統就任式への日本議員出席に抗議

ビジネス

米天然ガス大手チェサピーク、人員削減開始 石油資産

ビジネス

投入財の供給網改善傾向が停滞、新たな指数を基に米N

ワールド

米エール大卒業式で学生が退場、ガザ戦闘に抗議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中