最新記事
フォーラム

アメリカを統合する大前提が「今回壊れた」可能性は何パーセントか

2021年1月20日(水)13時50分
田所昌幸+小濵祥子+待鳥聡史(構成:ニューズウィーク日本版ウェブ編集部)

■田所: ちなみに補足すると、私はアメリカにもイギリスにもカナダにも暮らしたことがありますが、外国人が一番住んでラクなのはカナダです。非常に成功している「マルチエスニック・ソサエティ」だと思います。とても緩いし、競争はあまりしない(笑)。アメリカとイギリスの良いところどりがカナダです。

しかし、世界中がカナダになったら困ります。つまり、「平和ぼけ」という意味では、カナダ人は日本人以上です。理由は非常に簡単で、面倒くさい安全保障上のことは大幅にアメリカにやってもらっているからです。とげとげしい対外関係にほとんどさらされていないので非常に気楽です。先ほど自らのアイデンティティが対外的な脅威に脅かされるという話が出ましたが、カナダ人については自分が何者であるかという点については、危機感が非常に薄い印象を強く受けます。

アメリカの分極化

■田所: 先ほどラストベルトについて少し言及しましたが、ラストベルトの衰退はもう50年以上前からです。それこそ日本製ラジカセや日本車を壊すなどの暴動も1980年代に起きており、ニュースになっていました。それが今改めてラストベルトがアメリカの衰退の象徴として取り上げられているのは、対中関係が意識されているからなのか、それともトランプ氏がずっと取り上げ続けたことによるものなのか。

よく私たち政治学者は特にアメリカの政治について、分極化や二極化と言いますが、過去のエリートのデータは残っていても、19世紀の有権者がどれほど分極化していたのかというはっきりしたデータはありません。南北戦争のときに世論調査があったわけではないので、そうすると今の分極化というのは、たかだか過去50〜60年と比べているというだけのことかもしれません。「これは初めてだ」と言いますが、実は「みんなが知っている中で初めて」というのが正しいのではないか、と。

■小濵: 19世紀との比較については確かにそうですね。現在の経済格差や分極化についてのデータにあたってみると、例えば外国生まれの移民人口の数や経済格差は時間を巻き戻すように19世紀の水準に近づいています。今は揺れ戻しの1つの時期ではないかという印象です。

■田所: なるほど。やはり私が年を取ってしまったのか(笑)、これは以前も起きたことではないかと思いがちなのでしょうね。ただアメリカの場合は先に言及した「ダイナミズム」を活かして、格差や分極化の問題も乗りきったところがありますね。統合と差異化のダイナミズムがずっと続いてきているのがアメリカであるとも見てよいのではないでしょうか。

日本人の目から見ると相当荒っぽいのですが、ダイナミックに問題に立ち向かい、分断を昇華していくエネルギーについて言えば、アメリカはまだ若い国です。政治的にも社会的にもさまざまなイノベーションが起こりうる国、新しいことが生まれる国である、と。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中