アメリカを統合する大前提が「今回壊れた」可能性は何パーセントか
(左から)田所昌幸・慶應義塾大学教授、小濵祥子・北海道大学准教授、待鳥聡史・京都大学教授 写真:サントリー文化財団
<アメリカのフェアネス(公平性)、イギリス・カナダとの違い、そしてカギとなるのは2026年だという発言も飛び出した。バイデン時代のアメリカはどうなるのか。フォーラム『新しい「アメリカの世紀」?』より(後編)>
「超大国アメリカの没落」など、「アメリカの世紀の終わり」はしばしば議論されてきたが、今後はどうか?
論壇誌「アステイオン」編集委員長の田所昌幸・慶應義塾大学教授と、同編集委員で特集責任者の待鳥聡史・京都大学教授、小濵祥子・北海道大学准教授によるオンラインフォーラム『新しい「アメリカの世紀」?』(主催:サントリー文化財団)を再構成し、掲載する(後編)。
※前編:「繰り返される衰退論、『アメリカの世紀』はこれからも続くのか」より続く。
アメリカのフェアネス
■田所: 話が少し変わりますが、住みやすい国でいうとアメリカはどうでしょうか?
■小濵: アメリカは移民やマイノリティ、留学生でも能力さえあれば認めてもらえるという安心感が私にはあります。人種差別が存在するのは確かながら他国と比較しても、育ちや階級など能力とは関係ないところで競争にそもそも参加できないということは少ないのではないかと......。
■田所: 小濵先生のご指摘はかなり適切ですね。ですから、私は競争して負けてしまうのではないかと、アメリカのほうが逆に怖いです(笑)。しかし、イチローであれ誰であれ、ヒットを打ったらヒットであり、ホームランを打ったらホームランだと、そこはアメリカ人は極めてはっきりしています。そこが疲れるところではありますが、競争には勝ちさえすればいいのです。
■待鳥: そうですね、アメリカは人の生き血を吸ってというか、世界中の最高の能力や資質を持った人に、最高の成果を出させることで成り立ってるところはありますよね(笑)。しかし、最高の「生き血」を提供してくれた人には最高の処遇を与えるということを約束する国であり、そこがアメリカの「フェアネス(公平性)」です。
■田所: だからこそ、「アメリカンドリーム」を信じて次から次へと多くの人がやってきて、成功した人たちはアメリカがやはり世界で一番いいと言う。そして成功者が自らアメリカの戦力になっていくという力強さがあります。
イギリスはその点ではやや異なります。イギリス人が言うほどに階級社会ではないと私は思っていますが、やはり地元の人でないと入れないところがあるのは事実です。でも、それはかえって清々しい。つまり中に入ってさえ行かなければ、勝手にやっていてくださいという姿勢です。
イギリスがとても居心地がいいのは、ほっといてくれることです。でも、助けてほしいと頼んだら割と親切に助けてもくれる。そういう意味では、アメリカ人は頼みもしないのに親切にしてくれる人が非常に多いというのが私の偽らざる印象です(笑)。それが人のよさであり同時にフェアで、しっかりやれば確実に認めてくれるという他者への敬意でもあります。そういうアメリカのフェアネスに多くの人が惹かれているのでしょう。
しかし、実際には多くの人が挫折するわけです。競争ですから負けた人たち、特に昔からアメリカにいて負けていった人たちには非常に厳しいのが現実です。それがよく指摘されるラストベルトの人々ですね。