バイデンのアジア重視を示したキャンベル元国務次官補起用
Biden Makes His First Bold Move on Asia
オバマ政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めた時期には、いわゆる「アジア回帰政策」を推進。この政策については、ヨーロッパと中東を後回しにするような印象を与えるとか、中国を挑発する危険性があるといった批判もあったが、その背後にあるパワーバランス戦略は妥当であり、トランプ政権の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の土台ともなった。キャンベルのアジア重視戦略は、政権移行チームと民主・共和両党の議会幹部との合意の中核を成している。
第2に、キャンベルが就くポストが新設されたことで、アメリカ外交におけるアジア戦略の重要性はかつてなく高まる。筆者が2001年にNSCに入ったときには、ヨーロッパ部門はアジア部門の3倍の規模だった。2005年の退任時には、ほぼ同じ規模になり、いずれも上級ディレクター1人と、ほぼ5人のディレクターが指揮していた。
バイデン政権ではアジア部門に今のヨーロッパ部門の3倍の3人か4人の上級ディレクターが置かれ、NSC内でも特に大きな権限を持つ部門となる見込みだ。
こうした大幅な組織再編があると別の部署にしわ寄せが行くものだが、この場合はヨーロッパ部門も強化される可能性がある。NATO加盟国、それに多くのEU加盟国はバイデン政権と協力して中国を牽制したいと考えているからだ。同盟国の連携による対中包囲網の構築は、ドイツやフランスにまで噛み付いたトランプが、あっさり捨て去った戦略的カードだ。
超党派の影響力
第3に、キャンベル起用は、中国およびアジア戦略で超党派の合意を重視するという次期政権の意思表示ともなる。共和党全国委員会は2020年の選挙で自党の候補者たちにバイデンの対中政策を批判するよう指示したが、実のところ米政界では対中政策をめぐり超党派の幅広い合意ができている。
戦略国際問題研究所(CSIS)が2020年8月に実施した調査によると、同盟国との連携強化、重要な技術の保護、人権と民主主義で中国に強い圧力をかけること──この3点で民主・共和両党の議員や外交問題の専門家の考えは概ね一致している。
キャンベル自身、アジア政策における超党派の合意づくりに尽力してきた。筆者はジョージ・W・ブッシュ政権時代にNSC入りする前に、国防総省でキャンベルの下で働いたことがあり、彼とは長い付き合いだ。2019年12月までトラプ政権のアジア担当国防次官補として辣腕を振るったラダル・シュライバーもクリントン政権時代にキャンベルの下で働き始めた。
故ジョン・マケインはじめ、共和党の議員たちも中国、日本、台湾などアジアの国々についてはたびたびキャンベルに助言を求めてきた。マケインがシンガポール訪問を前に私たちのブリーフィングを受けた際、キャンベルは台北に立ち寄ってほしいと強く求めた。台湾への締め付けを強化する中国を牽制するためだ。既に訪問日程は決まっていたが、マケインはスタッフに変更を指示し、キャンベルの勧めに従った。