無邪気だったアメリカ人はトランプの暴挙を予想できなかった
WE CANNOT BE COMPLACENT ANYMORE
しかし、そんな運もいつかは尽きる。アメリカ人は4年前に、病的なまでにナルシシストのトランプを大統領に選んでしまった。この男が大統領として最悪なのは4年前から明らかだったが、その決定的な証拠が1月6日に起きた事態だ。
まともな根拠を示すことなく「不正選挙」を訴えてきたトランプは、副大統領のマイク・ペンスが粛々と選挙結果の承認手続きに着手したまさにそのとき、自らの熱狂的な支持者らに「議事堂へ向かえ」と呼び掛けた。
それまでのアメリカ人は無邪気だった。選挙でトランプに一票を投じた人は7400万人もいた。1月6日の時点でさえ、共和党の少なからぬ議員が選挙結果に異議を唱えていた。しかし誰が、これほどまでの暴挙を予想していただろう。
既にペンスはトランプを見限り、選挙人投票の集計結果に異を唱えないと表明していた。つまり、ジョー・バイデンを次期大統領と認めるということだ。ところが、そこへ数千人の暴徒が議事堂に押し掛けた。窓ガラスを割り、銃を構える警官を押しのけて、議事堂を実質的に占拠した。
連邦議会議事堂の警備に当たる議会警察(USCP)はもとより小編成で、そもそもこんな事態を想定していなかった。議事堂が襲撃されるのは1812年に始まる米英戦争で首都が英軍に占領されて以来のことだから、まあ無理はない。
暴徒はナンシー・ペロシ下院議長(民主党)の執務室や下院の議場にも乱入した。混乱の中で双方に多くの負傷者が出た。現時点では警官1人を含む5人の死亡が確認されている。
大統領による反乱は想定外
始まりはホワイトハウス前で開かれたトランプ支持派による抗議集会だった。このときトランプは支持者に、投票の集計結果に異議を唱える共和党議員を応援するために議事堂まで行けと呼び掛けた。
その後にはツイッターへの投稿で、ペンスには「この国と憲法を守るためになすべきことをする勇気がない」と断じ、支持者をあおり立てた。
議事堂占拠という前代未聞の事態を招いてからも、トランプは「平和的な行動を。暴力はなしだ!」と呼び掛ける一方、あの選挙は盗まれたのであり、勝ったのは自分だという従来の主張を繰り返した。そして暴徒たちには、「諸君を愛している、諸君はすごく特別だ」と呼び掛けていた。