最新記事

韓国

慰安婦訴訟、韓国国内にも判決と文在寅政権を批判する声も

2021年1月12日(火)17時30分
佐々木和義

文在寅政権の選択肢は狭まっている...... Kim Min-Hee/REUTERS

strong><1月8日、韓国ソウル中央地裁は、慰安婦問題をめぐって日本政府に、原告1人当たり1億ウォンの賠償金の支払いを命ずる判決を下し、韓国国内にも波紋を広げている......>

韓国ソウル中央地裁が2021年1月8日、旧日本軍の元慰安婦12人が日本政府を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、原告1人当たり1億ウォン(約950万円)の賠償金の支払いを命ずる判決を下した。

日本政府は、ある国家の裁判所が他の国家を訴訟当事者として裁判することはできないという国際慣例法「国際法上の主権免除の原則」を主張して裁判自体を認めておらず控訴をしないため、1審が韓国の確定判決となる見込みである。

注目されていた「国際法上の主権免除の原則」に対する判断

故裵春姫(ぺ・チュンヒ)氏ら12人の原告は、植民地時代に日本に強制連行されて慰安婦にされたとして2013年8月、慰謝料を求める民事調停を申し立てが、日本政府が訴訟関連書類の送達を拒絶し、調停が行われることはなかった。

16年1月、原告の要請を受けて正式裁判に移行したが、日本政府が送達を拒絶したため、ソウル中央地裁は訴訟関連書類を受け取ったと見なす「公示送達」の手続きを取った。

同地裁は判決で「資料、弁論の趣旨を総合すると被告の不法行為が認められる」「(原告は)精神的、肉体的苦痛に苦しんだとみられ、慰謝料は原告が請求した1億ウォン以上とみるのが妥当」と説明、さらに「1965年の韓日請求権協定や2015年の慰安婦合意に、この事件の損害賠償請求権が含まれるとは見なしがたく、請求権の消滅はないとみる」と付け加えた。

今回の判決では「国際法上の主権免除の原則」に対する判断が注目されていた。2004年、ナチスによる強制労働被害者がドイツ政府を相手取って起こした訴訟で、イタリアの最高裁は「重大犯罪は主権免除の例外」として賠償判決を下したが、国際司法裁判所(ICJ)は「ナチスの行為は国際法上の犯罪だが、主権免除は剥奪されない」として、ドイツ政府が主張した「主権免除の原則」を認めている。

徴用工裁判から日韓関係悪化

2018年、元朝鮮半島出身労働者が賠償金の支払いを求めたいわゆる徴用工裁判で、日本は1965年の日韓請求権協定違反だと遺憾を表明したが、韓国の裁判所は、個人請求権は消滅していないとして原告勝訴の判決を下した。

日韓請求権協定は相手国への請求権を放棄する協定であり、自国の政府や企業に対する個人請求権は国内問題である。

徴用工判決が下された当時、文在寅大統領は三権分立を盾に静観したが20年10月、日本企業が賠償に応じれば、韓国政府が全額を穴埋めするという案を提示した。

65年の日韓国交回復以来、最悪といわれる現在の日韓関係は徴用工判決に端を発する。徴用工判決の翌月18年11月、韓国政府が日韓慰安婦合意に基づいて設立された「和解・癒やし財団」の解散を表明し、12月には韓国海軍のレーダー照射事件が起きた。

19年7月、日本政府が韓国向け輸出管理を強化すると、韓国政府はWTO提訴と日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を主張し、日本製品不買運動が広がった。

日本から部材を輸入するグローバル企業への影響はほぼないが、観光業や日本からの輸入品を販売する事業者などが多大な被害を受け、文在寅大統領の退陣を求める声が広がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ戦争「世界的な紛争」に、ロシア反撃の用意

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中