ワクチン接種呼びかけは「実験台」への呼び込み? 黒人宗教指導者、迷いの理由
テネシー州メンフィスで約50人の信徒を抱えるアビシニアン伝道バプティスト教会のアール・フィッシャー牧師は、「このような大規模ワクチン接種を受け入れるよう、信徒たちに心を込めて説得することはできない。しかし同時に、根拠のない陰謀論を支持しようとしているわけでもない。綱渡りの状態だ」という。
信頼と情報の不足に懸念
インタビューに応じた黒人教会指導者は全員、新型コロナ危機を終らせるためにワクチンは必要だと考えていると述べた。だが、現時点で無条件にワクチンを支持すると答えたのは1人だけだった。
体内でワクチンが作用する仕組みや接種を受けられる場所、想定される副作用について教区民に伝達できるよう、もっと情報がほしいとする見解が大半だった。
ブルックリン区ブラウンズビルのファースト・バプティスト教会のレジナルド・ベルトン牧師は、「1人の牧師として、また医療関係者として、これまで目にしてきた惨状ゆえに、人々がワクチンを接種すべきである理由は分かる。しかしその一方で、私たちが過去に受けてきた扱いを考えれば、アフリカ系米国人のコミュニティーがワクチンを信用しない理由も理解できる」と語る。彼はある病院で、聖職者による心理的ケアも行っている。
ベルトン師は、自身もワクチン接種を受ける予定であり、ワクチンについて信徒たちにもっと情報を提供したいと語っているが、ワクチンを支持するかどうかについては明言を避けた。
ロイターがインタビューした牧師たちは、ワクチン受容を高めるには、地方自治体やその他の当局者が信徒コミュニティーとの信頼関係を築く必要がある、と話している。
ミズーリ州セントルイスでライフ・センター・インターナショナル・チャーチ・オブ・ゴッド・イン・クライストを主宰するイライジャ・ハンカーソン牧師は、ファイザー/ビオンテック製、モデルナ製のワクチンの有効性が90%以上であるとする治験結果は出ているものの、自らワクチン接種を推進しようとするには十分ではない、と話す。
だがハンカーソン師は、セントルイス当局がワクチンの有効性と安全性を保証し、教会の法務・医療部門の了解が得られれば、自らウェブキャスト放送やソーシャルメディアでワクチン接種を推奨するつもりだという。双方を合わせると約7万人にその情報が届くことになる。
「たしかにデータは大切だが・・・」とハンカーソン師は言う。彼は叔父と2人の同僚を新型コロナのために失っている。「信頼している人が『これは皆のためになるものだ。パンデミックを片付けよう』と保証してくれれば、私たちは迷わずワクチン接種を受けるだろう」
黒人の医療従事者を組織する全米医療協会(ナショナル・メディカル・アソシエーション)が21日に行った発表は、アフリカ系米国人にそうした保証を与えることが狙いだった。同協会は、治験データを独自に検証したうえで、連邦政府がファイザー製、モデルナ製のワクチン接種を緊急承認したことを支持するとしている。
医療面での人種間格差の是正に取り組んでいるナショナル・ブラック・チャーチ・イニシアチブのアンソニー・エバンス代表は、いずれ黒人系教会が人々にワクチン接種を呼びかける動きに参加することを期待している。
一部の宗教指導者は、自分自身では迷いを感じつつも、他にほとんど選択肢がないという理由でワクチン接種を奨励している。
ミシガン州イプシランティで約400人の信徒を抱えるセカンド・バプティスト教会のジョージ・ワドルス牧師は、今月のオンライン礼拝で次のように語ったという。「私たちには3つの選択肢がある。ワクチン接種か、(社会からの)孤立か、多くの人が命を落とすか、だ」
(翻訳:エァクレーレン)
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