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総ざらいバイデンの外交10大課題 最も変化が大きいのは?

BIDEN’S 10 FOREIGN CHALLENGES

2021年1月29日(金)07時00分
ロビー・グレイマー、エイミー・マッキノン、ジャック・デッチ、クリスティナ・ルー

シリアのバシャル・アサド大統領はロシアとイランの後ろ盾を得て今なお権力を保ち、アメリカはISの掃討作戦で活躍したクルド人勢力の戦闘員を支援し続けていることでトルコと緊張状態にある。

バイデンが大統領に就任する直前、クリストファー・ミラー国防長官代行(当時)はアフガニスタンの旧支配勢力タリバンによる攻撃が急増しているにもかかわらず、アフガニスタンとイラクの駐留米軍をそれぞれ2500人規模に削減したと発表した。ミラーは、現地の状況が許せば、5月までに兵の数をゼロにする可能性もあるとしていた。

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N ATOの国旗を掲げるドイツ兵 INTS KALNINS-REUTERS

5.欧州諸国とは関係改善へ

4年間トランプにいたぶられてきた欧州諸国とアメリカとの関係改善は、ある意味では楽なはずだ。「バイデンはヨーロッパに顔を出すだけでいい」と、欧州議会でエストニア代表を務める同国の元外相、マリナ・カリユランドは指摘する。

バイデンは、今も尾を引く欧州諸国との摩擦への対処を迫られる。当然、トランプのように強引な手法は取らない。しかしNATO加盟諸国に対して防衛費の増額を求める姿勢は受け継がれるだろう。

一方で、ドイツの駐留米軍の3分の1に当たる人数を削減するというトランプの方針は直ちに撤回される可能性もある。

1月6日に首都ワシントンの議事堂を襲った暴徒に比べれば、ヨーロッパ各国にいる極右過激派などは恐れるに足りないと、バイデンは思っているかもしれない。

だがトランプ時代を見てしまったヨーロッパ諸国は、アメリカへの警戒感を強めている。今後もアメリカの外交力や軍事力、経済力に対する依存度を減らす道を歩み続けるだろう。

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ネタニヤフ首相とムハンマド皇太子 MIKHAIL KLIMENTYEV-SPUTNIK-KREMLIN-REUTERS (RIGHT), RONEN ZVULUN-POOL-REUTERS (LEFT)

6.サウジ関係は見直し

トランプ政権は、共和党議員をはじめとする米議会の猛烈な反対を押し切ってサウジアラビアを全面的に支持し、イエメン内戦に介入するサウジ側へのアメリカの軍事支援を停止しようとする議会の動きにも抵抗した。

さらにトランプは(サウジ王家に批判的なジャーナリストの)ジャマル・カショギがサウジの工作員らに殺害された一件で自国の情報機関の進言を無視し、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の責任を問うこともしなかった。

バイデン政権が示す針路はトランプとは明らかに違う。バイデンは昨年10月、「政権を握った暁にはサウジとの関係を見直し、アメリカの魂を売って武器を販売したり原油を購入したりすることは絶対にしない」と語っている。

また政権移行チームに近い多くの専門家らは、バイデンがイエメン内戦における親サウジ勢力への米軍の支援を終わらせ、サウジと隣接するアラブ首長国連邦に武器を大々的に販売している現状に歯止めをかけるのではないかとみている。

ただしサウジアラビアの地政学的な重要性を考えれば、バイデンが同国との関係を大幅に縮小するとは考えにくい。

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トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

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