新星ブティジェッジがアメリカの車社会を変えられるこれだけの理由
Planes, Trains, and Relentless Ambition
ブティジェッジはバイデン(右)からも「息子を思い起こさせる」と最大級の信頼を得ている KEVIN LAMARQUE-REUTERS
<バイデン政権の運輸長官に指名された38歳のピート・ブティジェッジが挑むのは、破綻寸前の交通システム改革だ>
1月20日の就任に向けて、新政権の人事を着々と進めるジョー・バイデン次期米大統領。12月15日には、ピート・ブティジェッジ前サウスベンド市長(38)を運輸長官に指名することを発表した(就任するのは上院の指名承認を経てからになる)。
サウスベンドはインディアナ州の人口10万人程度の都市で、ブティジェッジには連邦どころか州レベルの政治経験もない。だが、2019年に民主党の大統領候補指名争いに名乗りを上げると、緒戦で予想以上の健闘を示し、全米の注目を集めることになった。
一方で、ハーバード大学卒で、ローズ奨学生として英オックスフォード大学に留学し、コンサルティング会社マッキンゼーに就職と、エリート街道をまっしぐらに歩んできたブティジェッジは、自分が大統領の候補指名を獲得する可能性がないと見極めるのも早かった。
序盤の山場である2020年3月のスーパーチューズデー直前に予備選から撤退すると、すぐにバイデン支持を表明。その後はバイデン陣営のブレーンとして選挙戦を支えてきた。
そんなブティジェッジに、バイデンは「(亡くなった長男)ボウを思い起こさせる」と、個人的にも最大級の信頼を寄せていた。それだけにブティジェッジの政権入りは確実とみられていた。
次期運輸長官は2つの大きな課題に直面する。まず、気候変動対策だ。運輸部門は、アメリカ最大の地球温暖化ガス排出源の1つであり、カーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)を減らすためには、運輸部門における排出削減を避けて通れない。
2つ目の大きな課題は、コロナ禍の影響だ。コロナ禍とその後の不況は、航空各社をはじめ運輸業に計り知れないダメージを与えている。さらに運輸長官は、全米の交通局に莫大な補助金を交付し、空港やハイウエーや鉄道などのインフラに目を配り、自動走行車などの新しい技術も管理しなければならない。
こうした課題を考えたとき、「ブティジェッジ運輸長官」は最適の人事とは言い難い。アメリカの行政が機能不全に陥っているのは、専門的な経験や知識のある人材を登用せず、こうした「ご褒美人事」がはびこっているからだという批判を勢いづかせそうだ。
市長時代の画期的政策
だが、楽観できる点もある。民主党中道派のブティジェッジは、予備選でも、進歩主義的過ぎない気候変動対策や運輸政策を唱えていた。しかもその根底には、アメリカが人々の生活や自然環境を犠牲にしながら、車中心の社会を構築してきたという正しい事実認識があるようだ。