最新記事

感染症対策

英アストラゼネカ、ワクチン有効率証明にいまだ多くの作業 実用化遅延も

2020年12月9日(水)11時15分

英製薬大手アストラゼネカが英オックスフォード大学と共同開発する新型コロナウイルスワクチンを巡り、当初発表された有効率90%を証明するにはまだ多くの作業が残されていることが、英医学誌ランセットに掲載された論文で明らかになった。写真はイメージ。10月撮影(2020年 ロイター/DADO RUVIC)

英製薬大手アストラゼネカが英オックスフォード大学と共同開発する新型コロナウイルスワクチンを巡り、当初発表された有効率90%を証明するにはまだ多くの作業が残されていることが、英医学誌ランセットに掲載された論文で明らかになった。論文は外部専門家による査読(ピアレビュー)という作業を経たもので、実用化が遅れる可能性がある。

アストラゼネカは11月23日に同ワクチンの臨床試験(治験)の中間結果を発表。それによると、まず半分の量を投与し、少なくとも1カ月の間隔を置いて全量投与した場合の有効率が90%と、計画通り全量を2回投与した場合の有効率62%を上回った。ワクチン開発関係者は、1回目に半分の量を投与したのは「セレンディピティー(偶然の幸運)」だったとした。

ただ今回発表された論文には、1回目の接種の量を半分にした方がなぜ効果が高かったのか明確な説明はなく、「より多くの治験結果が明らかにされるにつれ、一段の研究が必要になる」との記述にとどまった。

英国で実施された治験では、1回目の接種量が半分だった治験参加者の割合は6%に満たず、この中に55歳以上の人は含まれていなかった。このことは、感染すると重症化する恐れがある高齢者に対する効果を確認するために、一段の治験が必要になる可能性があることを示している。

ただ全体の有効率は70.4%と、米食品医薬品局(FDA)が定める最低水準の50%は上回った。

アストラゼネカの研究・開発部門を率いるメネ・パンガロス氏は、「年末から来年初旬にかけて」各国の保健当局に承認申請する可能性があると指摘。ただオックスフォード・ワクチン・グループを率いるアンドリュー・ポラード氏は、投与量が異なる2種類の接種方法でそれぞれ異なる結果が出たことで、承認過程が複雑になる可能性があると述べた。

パンガロス氏は、治験の再実施の必要性については明確に示さず、「次回の治験を実施について何も決定していない。状況を見ながら決定する」と述べるにとどめた。

他のワクチンを巡っては、「メッセンジャーRNA(mRNA)」技術に基づくものを開発する米モデルナと米ファイザーがそれぞれ有効率が90%を超えたとする治験結果を発表。ファイザーのワクチンはこの日、英国で接種が始まった。

アストラゼネカのワクチンは従来の技術に基づくもので、超低温で貯蔵する必要はないため、途上国などでの利用に有利とみられている。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・【調査報道】中国の「米大統領選」工作活動を暴く
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力


20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中