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トランプ政権が確保した人工呼吸器14万台 約半数はコロナ重篤患者救えず

2020年12月7日(月)13時21分

米政府は今年4月、約30億ドル分の人工呼吸器を非常時に備える米戦略的国家備蓄用に発注したと発表した。しかし、ロイターが公開の仕様書を閲覧したり医師や業界幹部らに取材した結果、4月の発表以降に米政府が調達した14万台のうち、ほぼ半数は簡易型の呼吸装置だったことが分かった。写真は人工呼吸器を使用する患者。ヒューストンの病院で11月撮影(2020年 ロイター/Callaghan O'Hare)

米政府は今年4月、約30億ドル分の人工呼吸器を非常時に備える米戦略的国家備蓄(SNS)用に発注したと発表した。新型コロナウイルス感染が西海岸と東海岸で急拡大したことに伴う措置で、深刻な呼吸器疾患から米国民を救う目的だった。

しかし、ロイターが公開の仕様書を閲覧したり医師や業界幹部らに取材した結果、4月の発表以降に米政府が調達した14万台のうち、ほぼ半数は簡易型の呼吸装置だったことが分かった。コロナ患者の主要な死因である「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」の治療に必要な最低限の要件を満たさないとされる装置だ。

ARDSの患者に気管挿管して使うタイプの集中治療室(ICU)用装置はわずか10%しかなかった。40%が短時間の使用を想定する搬送用装置だった。

米胸部専門医学会の学会誌に掲載された人工呼吸器専門家22人の9月の研究によると、国家備蓄に追加された装置の半分は、ARDSの治療に向いていなかった。

事情に詳しい関係者によると、こうした人工呼吸器の配備数や性能を詳しく分析したのは、今回のロイターによる分析が初めてだ。

ジョンズ・ホプキンズ病院(ボルティモア)のサジッド・マンズール医師によると、呼吸器の多くがARDS患者に必要な条件を満たしていない上に、こうした人工呼吸器が国家備蓄されていることが、誤った安全の意識につながる。「ARDSになると症状は極めて重くなる。こうした患者のためには、どうしてもICU用の呼吸器が必要だ」と話す。

人工呼吸器の国家備蓄を管轄する米厚生省の報道官は、省庁間の部際チームが、新型コロナの治療ニーズをぎりぎり予測するしかなかった3月に、どの機種や性能を調達するかを推奨したと説明した。

当時は新型コロナについてほとんど分かっておらず、厚生省として想定できる最悪のシナリオに基づいて準備しようとしたという。その後に連邦政府が新型コロナの臨床データを多く入手できるようになり、対応を修正したとしている。

米国では先週にコロナ新規感染者が110万人を超え、コロナ死者は26万8000人を超えている。現状で米国内に人工呼吸器供給の危機はない。ステロイド剤などの治療法が出てきて、気管挿管の需要が低下しているためだ。厚生省や簡易型の呼吸器のメーカーは、そうしたタイプでも新型コロナのそれほど急性でない症状を改善することはできるとしている。

しかし、ICU勤務経験があり、人工呼吸器使用の研究も発表している呼吸器疾患専門家の3人は、ロイターの取材に対し、連邦政府はARDS患者に対処できる人工呼吸器だけを追加調達すべきだったと語る。予算なども限られる中で、この春に重視されるべきだったのは、まさに当時供給が不足していたタイプの機器だったとしている。

米胸部専門医学会の報告の共同執筆者、マイケル・クリスティアン医師によると、集中治療室の患者の圧倒的多数が深刻な呼吸器症状である場合、患者を支えられるのは複雑な機能の人工呼吸器だ。

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