最新記事

中国

日本の外交敗北──中国に反論できない日本を確認しに来た王毅外相

2020年11月30日(月)18時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

王毅外相が来日(11月24日、日本の茂木外相と)  Issei Kato-REUTERS

王毅外相が尖閣を中国の領土としたのに対して日本がその場で反論しなかったことを中国は外交勝利と狂喜している。GDP規模が2025年にはアメリカの9割に及ぶとしたIMF予測を背景に中国は強気に出たのだ。

王毅外相に反論できなかった日本の無残な敗北

11月24日、中国の王毅外相は茂木外相と会談し、会談後の記者会見で「最近、一部の正体不明の日本の漁船が釣魚島(尖閣諸島)のデリケートな海域に侵入している。中国はそれに対して必要な対応をするしかない。この問題に関する中国の立場は非常に明確で、われわれは今後も引き続き中国の主権を守っていく」と述べた。

これに対して茂木外相はその場で反論することもなく、日中外相会談は有意義で喜ばしいものであったという趣旨の冒頭に述べた感想を否定もしていない。

実際の会談では日本は尖閣問題に関して「遺憾の意を伝え」かつ「改善を強く求めた」と言い訳しているが、中国側に百万回「遺憾の意」を伝えたところで中国はビクともしないし、「改善を強く求めた」と言ったところで、中国側は「中国の領土領海に日本の漁船らしきものが不当に侵入してくるのはけしからんことで、これを追い払うのは中国の当然の権利であり、追い払う際に船舶の衝突が起きないような海上のメカニズムだけは整えてもらいたい」という姿勢でしかない。

25日には菅総理とも会談したが、尖閣諸島問題に関して、やはり「中国側の前向きの対応を強く求めた」としているだけで、日本側は誰一人「尖閣諸島を中国の領土などと言うのでしたら、どうぞお帰り下さい。会談はここまでに致しましょう」とは言っていない。

中国側が300日以上にわたって尖閣諸島の接続水域や領海に進入を続けた上で王毅外相が来日したのは、ここまでの「侵入」でも日本側が何ら具体的な行動を「できないだろう」ということを確かめに来たのである。その証拠に、会談中にも領海侵犯を続行しており、それに対して日本が「こんなことをするようでは、日中会談は成立しないので、ここまでだ」と言わないということは、「この程度までの侵入を日本は黙認したのだ」というシグナルを中国に発したのに等しい。

中国のネットでは英雄扱いの「王毅凱旋!」

中国のネットでは、まるで「王毅凱旋行進曲」を奏でて王毅凱旋のお祭り騒ぎをやっているような熱狂ぶりだ。

われらが王毅、よくやった!

中国の外交勝利だ!

日本は釣魚島が中国の領土だということを黙認したぞ!

といった声に溢れている。

たとえば「釣魚島!訪日期間、王毅は遂に言ってのけたぞ!主権問題一寸も譲らず」「訪日で釣魚島に関して聞かれ、王毅はみごとにやり返した!」あるいは「25日、王毅日本で釣魚島問題を語る。中国の立場を明確にさせた意義は非常に大きい!」など、枚挙に暇がない。

なんということだ!

情けないではないか。

中国が強気に出たわけ――2025年GDP規模に関するIMF予測

実はIMF(国際通貨基金)のGDP予測によると、2020年の中国のGDPは前年比1.9%増で、主要国・地域の中で唯一のプラス成長になることが報告されている。さらに中国にとって大きいのは、GDP規模が2025年までにアメリカの約90%にまで達するというデータが出されたことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:米投資計画、夏ごろに再検討 リスクと

ビジネス

米関税含め「不透明感一層高まっている」、予断持たず

ビジネス

貿易収支3月は5441億円の黒字、財務省「駆け込み

ビジネス

米関税政策は日本経済を下押し、動向注視していく=植
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 10
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中