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インタビュー:米投資計画、夏ごろに再検討 リスクとチャンス天秤=日本ゼオン社長

2025年04月17日(木)11時29分

 4月17日、日本ゼオンの豊嶋哲也社長(写真)はロイターのインタビューに応じ、2年程度の凍結を決めた米国のリチウムイオン電池用バインダー生産設備の投資計画について、90日の米相互関税の停止が終わる夏ごろをめどに再度検討する意向を示した。写真は16日、都内の本社で撮影(2025年 ロイター/Sam Nussey)

Ritsuko Shimizu Sam Nussey

[東京 17日 ロイター] - 日本ゼオンの豊嶋哲也社長はロイターのインタビューに応じ、2年程度の凍結を決めた米国のリチウムイオン電池用バインダー生産設備の投資計画について、90日の米相互関税の停止が終わる夏ごろをめどに再度検討する意向を示した。トランプ米大統領の就任により、電気自動車(EV)市場を含めて先行きが不透明になっている一方で、米国内での生産を拡大するチャンスとも捉えている。

豊嶋社長は、EV市場の成長鈍化やトランプ氏のEV促進策撤回など「大きな環境変化があったため一時停止したが、2年という期間にはこだわらず、必要になればいつでも再開できる準備はしている。決断するだけ」と述べた。

トランプ氏がEV優遇から方向転換を図ったことで、EV市場の伸びは鈍化が予想される。また、関税や規制などを含めて不透明な中で米国向け投資に対するリスクも高まっている。一方で、中期的には電池の需要は拡大が見込まれるほか、米国内で製造する重要性は増している。

トランプ氏は「相互関税」の一部適用を90日間停止している。豊嶋社長は「90日が経過したところで、もう一度環境分析をして、再開するかもしれないし、もう少し待ってみようと思うかもしれない」と述べ、状況が見えるであろう夏ごろに判断を行いたいとした。100億円以上となる投資を決めてから生産設備が立ち上がるまで、2年程度かかるという。

同社は今年1月、米国の子会社ゼオンケミカルズがテキサス工場で計画していた投資を2026年の稼働予定から約2年間凍結すると発表した。同社の米国でのビジネスは、原料の調達を含めて、ほぼ米国で完結しているという。

一方、国内では、山口県周南市に主力製品であるシクロオレフィンポリマー(COP)の新プラントを建設、2028年度上期の完成を予定している。700億円の投資となるが、豊嶋社長は、COPは競争力が高く「シェア争いをしないで良いため、少なくとも市場と同率の伸びは可能」とし、医療用や光学フィルムなどの用途で需要拡大が見込めるとの見通しを示した。

<在庫少なく、キャッシュを厚く>

同社の製品は、サプライチェーン(供給網)の上流にあるため、足元ではトランプ関税の影響は出てきていないが「5月、6月ごろにはじわじわと受注が減ってくるのではないかと思っている。3月に受注の前倒しがあった。安い在庫がはけてくると受注が減ってくる可能性がある」と懸念を示した。さらには、中国や欧州の景気が良くない中、トランプ関税の影響でもう一段景況感が悪化することで、副次効果のように広がる懸念があると指摘。「まだ氷山の一角しか見えていないので、これがどの程度大きな氷山か分からない恐怖がある。金融に広がることが最悪シナリオ」という。今は、在庫を持たないようにし、キャッシュを厚くして備えている。

同社は、25日に決算発表を予定している。現段階では、計画の数字は維持しながら、影響がどの程度あるかという試算を示す方向で検討している。

日本ゼオンは、日本初の合成ゴム・合成ラテックスの製造メーカーとして知られ 、現在では高機能樹脂やプラスチックフィルム、電子材料やリチウムイオン二次電池材料といった高機能材料を手掛ける。

*インタビューは16日に実施しました。

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