日本の外交敗北──中国に反論できない日本を確認しに来た王毅外相
以下に示すのは今年10月にIMFが「世界経済見通し」において予測したGDP規模の推移の内、アメリカ・中国・日本を抜き出して示したものである。点線は予測値で原典は全てIMFデータによる。
この図表から読み取れるように、中国のGDP規模は以前からのIMF予測より早めにアメリカを追い抜きそうだ。2025年における予測値は「アメリカ/中国」=「23029.81/25783.44」=89.3%で、中国では2030年までに「中国はアメリカを追い抜く」と計算し意気込んでいる。
この予測値を背景に、王毅は日本に乗り込んできたわけだ。
王毅外相が茂木外相などと会談している真っ最中に、李克強総理は「1+6」円卓会談を開き、世界銀行やIMFあるいはWTOなど6つの金融や貿易あるいは労働問題などの国際組織の長と「中国が中心になって」話し合っていたのである。
中央テレビ局CCTVは、各国際組織の長が「コロナ禍をいち早く脱却した中国が世界経済をけん引していく」と褒めちぎる顔を大きく映し出していた。
日本のメディアや「中国問題専門家」にも罪
まるで「日本を取りに来た」ような王毅外相の行動を、日本の大手メディアは「中国問題専門家」と称する人たちの「中国が追い詰められて焦っている証拠」と分析する視点で報道したが、そのことにも罪があるのではないだろうか。
日本の現在の「嫌中度」は、(一部の)政治家を除けば世界一なので、メディアも「専門家」も、日本国民の感情に心地よいメッセージを発信し続ける傾向にある。
そうすれば、確かに「受け」はいいだろう。
しかし、それは本当に日本のためになるのだろうか?
日本国とまでは言わずとも、日本国民の幸せに本当に寄与するとは到底思えない。
まるで先の戦争における「大本営発表」のようで、「わが軍は連戦連勝、敵は敗退を続けております!」と叫んでいるように私には映る。この耳目に心地よい偽の宣伝こそが日本の敗北を招いたことは周知の事実だ。
それでもなお、日本は「不愉快な事実」には目をつぶり、「感覚的に心地よい響きの情報」にのみ耳目を傾ける傾向は変わってないようだ。
そのことを憂う。
敵は「日本を取りに来た」のだ。
尖閣諸島における中国の横暴を既成事実化して日本が反論しなかったことを以て「日本が中国の領有権を認めた」とみなし、その上でTPP11への加入交渉を中国に有利な方向に持って行こうとしている。
王毅外相は「中国に反論できない日本」を確認しに来たのである。
だからオンラインではなく、このコロナ禍でもリアル空間に現れ、日本の無様(ぶざま)と自分の「勇ましい晴れ姿」をきちんと計算した映像として世界に知らしめたのである。
日本政府もメディアも「専門家」たちも、そのことに目を向けるべきではないだろうか。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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