若者を魅了した若き日のバイデンに見る「次期大統領」の面影
BIDEN AT THE BEGINNING

上院選に初当選した当時、バイデンはアメリカで最年少の上院議員だった BETTMANN-CONTRIBUTOR-GETTY IMAGES-SLATE
<29歳で上院議員選に初挑戦し、若い世代の熱狂的支持を得てから半世紀──番狂わせの「最初の選挙」に次期大統領の個性はすでに表れていた。本誌「バイデンのアメリカ」特集より>
1972年秋、大統領選と連邦議会選挙(上下両院)の投票日まで1週間余りとなったある日、デラウェア州の有力紙ニューズ・ジャーナルに広告が掲載された。
出稿者は同州のニューキャッスル郡議会議員で、上院議員選に出馬していた29歳のジョー・バイデン。現職2期目で62歳の共和党の大物議員ケール・ボッグズに挑む若きバイデンは、ボッグズの世代と世の中のズレに焦点を当てた広告を打った。「ケール・ボッグズ世代の夢はポリオ撲滅だったが、ジョー・バイデン世代の夢はヘロイン撲滅だ」
広告のキャッチコピーは、州内の地域状況に合わせてバイデン自身が考案したとされる。州南部の海沿いの地域では「30年前、環境保護といえばレホボスビーチで瓶やビール缶を拾うことを意味したが(中略)、今ではビーチそのものを救うことを意味する」と訴え、州北部では「1950年代、ボッグズはハイウエーの延伸を約束した。1970年代のバイデンは樹木を育てることを約束する」と語り掛けた。
ニューズ・ジャーナルのノーム・ロックマン記者は当時、バイデンの広告戦略を「親愛なる老父」作戦と呼んだ。「老いた父の言葉は、彼の時代には正しかったのかもしれない。それに、僕は父を愛している。でも時代は変わったんだ」というアプローチである。
広告を打ってから1週間ほどして迎えた選挙当日、バイデンは3000票余りの僅差でボッグズを破るという番狂わせを演じ、世間を驚かせた。誕生日が投票日の2週間ほど後だったため、選挙当日には30歳という上院議員の被選挙権年齢にさえ達していなかった。
「本当に衝撃的だった」と、当時ニューズ・ジャーナルの記者として選挙戦を追ったボブ・フランプは最近、筆者に語った。「取材を通じて、ジョーにも勝ち目があるとは思っていた。でも編集部で結果を見ながら、誰もが信じられない思いだった」と、彼は言う。「人々が本気で新しい未来を望んだのだと思う」
この驚きの初勝利を皮切りに、バイデンは上院議員として36年、副大統領として8年のキャリアを積んだ。そして今回、大統領選への3度目の挑戦で、ついにアメリカ大統領の座を確実にした。
1972年当時のバイデンは、新鮮でカリスマ的な活力にあふれた候補者を待ち望む若者(とその親たち)を魅了した。だが、今のバイデンはかつてのボッグズと同じ。多くの有権者に長年支持されてきた愛すべき大御所だが、同時に長年のキャリアゆえに、新しい風を待ち望む声をかき立てる存在でもある。