サウジアラビア、バイデン政権に備えムスリム同胞団の弾圧急ぐ
サウジアラビアがイスラム組織、ムスリム同胞団への弾劾運動を再開している。写真はサウジのムハンマド皇太子。リヤドで2019年12月撮影。サウジ王室提供(2020年 ロイター)
サウジアラビアがイスラム組織、ムスリム同胞団への弾劾運動を再開している。米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領は、トランプ米大統領に比べてサウジ現政権への友好姿勢を後退させる公算が大きいため、今のうちに王室を脅かしかねない勢力に手を打っておく狙いだ。
サウジでは過去2週間、政府当局者、宗教学者、国営メディアがこぞって、ムスリム同胞団は造反の種をまき、国家の統治者に対する不従順を呼びかける集団だと警告。同胞団のメンバーを当局に通報するよう国民に促している。
こうした激しい非難の背景には、バイデン米次期政権が現政権よりも、独裁君主体制を敷くサウジ王室の人権抑圧を厳しく監視する一方で、平和的なイスラム活動には寛容な姿勢を示すとの懸念があると、専門家はみている。
今回の弾劾運動が始まって以来、当局による拘束者が出たかどうかは不明だ。サウジ政府は運動についてのコメント要請に応じていない。
ムスリム同胞団は今月、バイデン氏の勝利に歓迎の意を示すとともに、サウジ政府から向けられている非難の内容を否定した。同胞団のエジプト支部は17日、「グループは暴力やテロリズムとはかけ離れており、むしろ独裁者による恐怖政治の犠牲者だ」と述べた。
同胞団は米次期政権に対し、「独裁体制を支援する」政策を見直すよう求めた。
王室の支配体制
サウジ政府はムスリム同胞団について、思想的に政府と対立する勢力であり、選挙制度を支持するなどの政治活動を進めて、王室の支配体制を直接的に脅かしていると見なしている。
90年以上前にエジプトで創設された同胞団は、国内で度重なる弾圧を生き抜き、中東全域の他の政治運動に影響を及ぼしてきた。
2013年にエジプトのシシ現大統領が当時のモルシ大統領をクーデターで倒した際、同胞団は同国で地下に潜入した。
サウジでは、過去に活動家や一部の聖職者が同胞団に関連した組織を複数設立したが、これらは禁じられ、大半のメンバーは収監された。
サウジとアラブ首長国連邦、バーレーン、エジプトの各国は同胞団をテロ組織に認定し、何年も前から米政府にも同様の認定を行うよう働きかけてきた。
関係見直し
バイデン氏は既に、サウジ政府との関係を見直すと約束。サウジ人記者ジャマル・カショギ氏が2018年、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館でサウジ当局者らに殺害された事件についてもっと丁寧な説明を要求しているほか、米国はイエメン内戦を巡るサウジへの軍事支援をやめるべきだと訴えてきた。カショギ氏はサウジのメディアから、同胞団の一員だと非難されていた人物だ。
最高権力者ムハンマド皇太子とトランプ米大統領との関係が、国際的な批判に対する緩衝材の役割を果たしてきた。カショギ氏殺害に加え、女性活動家、知識人、聖職者、ジャーナリストなど数十人を拘束した事件以来、皇太子は人権抑圧を巡って世界から厳しい視線を浴びるようになった。
サウジアラビアのイスラム教最高権威、アブドルアジズ・シェイフ師は16日、同胞団を「イスラム教とは何の関係もない」、「逸脱した集団」だと述べた。