最新記事

ドイツ

「模範的な優等生国家」は幻想、ドイツで格差が拡大したのはなぜか

ALL EYES ON GERMANY

2020年11月12日(木)07時00分
ヘルムート・アンハイア(独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授)

その一方で、歓迎すべき批判的考察も加えている。よく指摘されるように、90年の再統一以降、地政学・国際的地位の高まりにもかかわらず、ドイツは欧州と世界での役割にあまりに消極的で確信がなさ過ぎると、ウォルフルムは懸念する。

ウォルフルムが目を向けるのは、ドイツの経済よりも政治や国内の団結だ。ヘルマンと同様、再統一を成功と捉え、旧西独出身者と旧東独出身者の関係の現状について慎重ながらも前向きな評価を下す。

だが言うまでもなく、ドイツのための選択肢(AfD)などの右派政党の台頭は深く憂慮している。15年の難民・移民危機に際してドイツは100万人超を受け入れたが、その長期的な影響はまだ分からない。

2005年の「ハーツ4」を実行した当時のゲアハルト・シュレーダー首相率いるSPDと緑の党の連立政権は、70年代のウィリー・ブラント政権以降、最も積極的で改革志向の政府だったとウォルフルムはみている。

4冊を通読すれば、明らかな逆説に気付かずにいられない。ヨーロッパも世界も多くの面で根底から変化しているが、ドイツはほぼ旧態依然に見える。メルケル長期政権の下で大幅な改革は実施されておらず、例外といえば、11年の福島第1原子力発電所事故を受けたエネルギー政策転換など、突然の衝撃に反応する形の動きでしかない。政策決定は場当たり的で、視野の広さや前向きなビジョンに欠けている。

現在のドイツの弱体ぶりは明らかに、多くの観測筋の想定を上回る。将来を見据えた真剣な改革に着手しなければ、過去の繁栄の配当は近いうちに使い果たされる。その日が来たら、ドイツと欧州、そして世界にとって悪い知らせになるだろう。

言い換えれば、大きな変化なしには、おそらくドイツは期待されるリーダーシップを発揮できない。無気力や怠惰に陥れば、より積極的で影響力のある役割を欧州内で担うチャンスはふいになる。

新型コロナウイルス危機は、こうした変化への機運を生み出している。既にメルケルはオーラフ・ショルツ副首相兼財務相と共に、わずか数カ月前には不可能と見なされていたはずの措置に踏み切った。

今のところ、改革の取り組みは経済・財政面に限られている。だが、まだ手遅れではない。ドイツは国内とヨーロッパの両面でより巨視的な視点に立ち、社会的団結の喪失やデジタル化、安全保障政策という課題に立ち向かうべきだ。

© Project Syndicate

<2020年11月3日号「ドイツ妄想の罠」特集より>

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中