最新記事

ドイツ

「模範的な優等生国家」は幻想、ドイツで格差が拡大したのはなぜか

ALL EYES ON GERMANY

2020年11月12日(木)07時00分
ヘルムート・アンハイア(独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授)

magSR20201111alleyesongermany-4.jpg

AfDが主催したデモ(東部ケムニッツ) SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

ドイツのベビーブーム世代(他国より10年ほど遅く、50年代の経済成長期に生まれた世代だ)が労働市場に大量参入し始めたのは80年代以降で、ちょうど脱工業化の流れが本格化した時期だった。熟練した技能を要するブルーカラー職に代わって、より低報酬で不安定なサービス部門の職業が主流になり、中間層の経済的地位とスキルが低下した。

デジタル化で大半が敗者に

問題を悪化させたのが、富裕層に有利で、中間層にはほぼ恩恵ゼロの税制だ。累進課税だった制度が逆進性の高いものになり、50年代には平均所得の20倍の収入を得る人が高額納税者だったのに、現在ではわずか1.3倍でそれに該当する。

さらに90年代からは、労働市場の後退にデジタル化が重なってきた。これこそ、本書の焦点だ。

ドイツの電機大手シーメンスのジョー・ケーザーCEO(当時)が16年に行った演説を、ゴファルトは引用している。

デジタル化は世界各地の中間層を破壊し、社会・経済・政治的分断という問題に直面することをあらゆる社会に迫ると、ケーザーは懸念した。

ソフトウエアエンジニアやデジタル起業家といった比較的少数の集団が利益を手にする一方、多くの職務スキルが不要になるために、社会の大半が「敗者」になる。膨らみ続ける対立の芽に対処しなければ、アメリカなどで既に起きている社会的闘争の拡大は不可避だろう。

本書が描く現在、および近未来像を直視するのはつらい。ただし、ゴファルトは2つの柱から成る改革案も提唱している。

第1の柱は規制だ。テクノロジー大手や多国籍企業全般に制限を課すには、全ての国がより強固で包括的な規制を施行する必要がある。

多国籍企業は長年、あらゆる抜け穴や会計トリックを駆使して課税を免れ、説明責任を回避してきた。応分の税負担など、共通のルールに従うことを徹底しない限り、これらの企業が問題解決に貢献することはできない。

第2に、新たな公的財源の確保が不可欠だという。現代ならではのリスクを効果的に管理するには、より多くの資源が必要だ。だが各国政府は今も、間接課税や個人所得税に依拠する。

税制改革はEUの行政機関と全加盟国の密接な協力の下、欧州全体で実施すべきプロジェクトだと、ゴファルトは指摘する。

「不変のドイツ」という逆説

前出の3冊とは対照的に、歴史家でハイデルベルク大学教授のエドガー・ウォルフルムは著書『アウフシュタイガー』で、東西統一以降のドイツをはるかにポジティブな筆致で描写する。本書のタイトルを他言語に置き換えるのは難しいが、上昇の感覚や野望といったニュアンスがあり、障害や自然の脅威を意に介さない登山家をイメージさせる単語だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米当局が当面ベネズエラ運営、会見でトランプ氏表明 

ワールド

米がベネズエラ攻撃、マドゥロ大統領拘束 未明に首都

ワールド

米がベネズエラ攻撃、マドゥロ大統領拘束 未明に首都

ワールド

ベネズエラ石油施設に被害なし、米の攻撃後も通常稼働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── 韓国拉致被害者家族が見る日韓の絶望的な差
  • 4
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 5
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 6
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 9
    松本清張はなぜ「昭和の国民作家」に上り詰めたのか…
  • 10
    トランプの圧力、ロシアの侵攻...それでも揺るがぬウ…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 5
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中