「模範的な優等生国家」は幻想、ドイツで格差が拡大したのはなぜか
ALL EYES ON GERMANY
ドイツのベビーブーム世代(他国より10年ほど遅く、50年代の経済成長期に生まれた世代だ)が労働市場に大量参入し始めたのは80年代以降で、ちょうど脱工業化の流れが本格化した時期だった。熟練した技能を要するブルーカラー職に代わって、より低報酬で不安定なサービス部門の職業が主流になり、中間層の経済的地位とスキルが低下した。
デジタル化で大半が敗者に
問題を悪化させたのが、富裕層に有利で、中間層にはほぼ恩恵ゼロの税制だ。累進課税だった制度が逆進性の高いものになり、50年代には平均所得の20倍の収入を得る人が高額納税者だったのに、現在ではわずか1.3倍でそれに該当する。
さらに90年代からは、労働市場の後退にデジタル化が重なってきた。これこそ、本書の焦点だ。
ドイツの電機大手シーメンスのジョー・ケーザーCEO(当時)が16年に行った演説を、ゴファルトは引用している。
デジタル化は世界各地の中間層を破壊し、社会・経済・政治的分断という問題に直面することをあらゆる社会に迫ると、ケーザーは懸念した。
ソフトウエアエンジニアやデジタル起業家といった比較的少数の集団が利益を手にする一方、多くの職務スキルが不要になるために、社会の大半が「敗者」になる。膨らみ続ける対立の芽に対処しなければ、アメリカなどで既に起きている社会的闘争の拡大は不可避だろう。
本書が描く現在、および近未来像を直視するのはつらい。ただし、ゴファルトは2つの柱から成る改革案も提唱している。
第1の柱は規制だ。テクノロジー大手や多国籍企業全般に制限を課すには、全ての国がより強固で包括的な規制を施行する必要がある。
多国籍企業は長年、あらゆる抜け穴や会計トリックを駆使して課税を免れ、説明責任を回避してきた。応分の税負担など、共通のルールに従うことを徹底しない限り、これらの企業が問題解決に貢献することはできない。
第2に、新たな公的財源の確保が不可欠だという。現代ならではのリスクを効果的に管理するには、より多くの資源が必要だ。だが各国政府は今も、間接課税や個人所得税に依拠する。
税制改革はEUの行政機関と全加盟国の密接な協力の下、欧州全体で実施すべきプロジェクトだと、ゴファルトは指摘する。
「不変のドイツ」という逆説
前出の3冊とは対照的に、歴史家でハイデルベルク大学教授のエドガー・ウォルフルムは著書『アウフシュタイガー』で、東西統一以降のドイツをはるかにポジティブな筆致で描写する。本書のタイトルを他言語に置き換えるのは難しいが、上昇の感覚や野望といったニュアンスがあり、障害や自然の脅威を意に介さない登山家をイメージさせる単語だ。