コロナ禍に揺れる旧ソ連圏 プーチン帝国の支配に衰えも
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キルギスの首都ビシケクで、学校の体育館を改装した施設で新型コロナウイルス感染者の治療にあたる医療関係者(2020年 ロイター/Vladimir Pirogov)
中央アジアに位置するキルギス共和国では、先月、選挙結果をめぐる対立を経て、群衆が政府庁舎ビルに押しかけ、大統領の辞任を叫んだ。このときロシアのウラジーミル・プーチン大統領は特に驚いた様子を見せなかった。
プーチン大統領は、ロシアの専門家らによる討論団体「バルダイ・クラブ」のオンライン会議に公邸から参加し、「選挙のたびに、実質的にはクーデターが起きている」と語り、「愉快な話ではない」と述べた。
この見方は正しいのかもしれない。キルギスは建前としては議会制民主主義の国だが、過去20年間で3回の革命を経験している。だが、ウラン・クダイベルディエフさんのようなキルギス国民のエピソードに見るように、最新の、つまり今回の革命は事情が異なる。
新型コロナウイルス対策としてのロックダウンが始まった3月、首都ビシケクでタクシー運転手をしていたクダイベルディエフさんは職を失った。8人家族は、7週間にわたり、収入ゼロの状態に陥った。
クダイベルディエフさんの母親であるラキャさんが新型コロナに感染した時点で、旧ソ連圏に属するキルギスの国営病院の病床に空きはなかった。豊かな金鉱山を抱えるキルギスだが、法定最低賃金は月250ドル(約2万6000円以下)である。静脈注射による投薬治療を受けるための往診料を払うには、一家は借金を重ねるしかなかった。
75歳のラキャさんはロイターに対し、「食いつなぐのが精一杯だった」と語る。
世界中の膨大な数の人々にとってロックダウンは過酷なものになっており、制限が厳しくなるにつれて、反発も高まりつつある。旧ソ連圏の各共和国のなかで、このところ社会の混乱が生じているのは、650万人の人口を抱えるキルギスだけではない。かつて支配下にあった旧ソ連圏に対するロシア政府の指導力がいかに脆弱かを裏付ける。
キルギスでは、新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)のもとで、経済的打撃や政治的な不満が急速にエスカレートし、社会全体のカオスが深まる一方で、ロシア政府が統制回復に向けた対応を急いでいる。
同時多発する難局
キルギスの混乱以前から、プーチン大統領は新型コロナの感染拡大が引き起こした政治危機に直面していた。西に約4500キロ離れ、やはり旧ソ連圏に属していたベラルーシである。同盟相手としては手強い老練な指導者であるアレクサンダー・ルカシェンコ大統領は、コロナ禍を軽視し、国民に向かって「ウォッカで消毒できる」と主張していた。
こうした態度はベラルーシの有権者を怒らせた。3月、新型コロナ対策を求める初めてのデモが行われ、その後は大統領選におけるルカシェンコ氏の勝利に異議を唱える街頭抗議行動が続いている。
アルメニアとアゼルバイジャンの間で数十年来続いている飛び地ナゴルノカラバフ地域をめぐる紛争が再発したことも、旧ソ連圏に対するプーチン大統領の影響力を危うくしている。今回の戦闘は、1990年代の流血を伴う民族暴動以降で最も激しいものとなったが、パンデミックとは関係なさそうだ。とはいえ、ロシア政府が自らの勢力圏内と見なしている地域に対して、近隣のライバルであるトルコが割り込もうとする動きが見られる。
要衝キルギスの事態を懸念
キルギスでは、クダイベルディエフさんを含む有権者が野党に投票した。公式集計でどの野党の得票率も10%以下であることが示されると、彼らの苛立ちは高まった。
昨年、ロシア空軍基地の拡張に合意するためビシケクを訪れたプーチン大統領はキルギスにおける一連の出来事を批判。近年ロシア政府が実施してきたロシア資本による総額5億ドル規模の複数のプロジェクトや、年間数千万ドル規模の援助事業にとって「災難」であると述べた。