最新記事

アメリカの一番長い日

米大統領選:トランプ「逆転勝利」に奇策あり

THE BATTLE GOES TO THE SECOND STAGE

2020年11月7日(土)17時40分
小暮聡子(本誌記者)

トランプが退院後、ホワイトハウスで開いた集会に参加した「BLEXIT」支持者たち。黒人とヒスパニックも民主党から出よう(エグジットしよう)と呼び掛ける SAMUEL CORUM/GETTY IMAGES

<予想外の接戦の立役者となった、新たな「トランプ票」とはどんな人たちだったのか。また、トランプ大統領が描く延長戦のシナリオとは? トランプ陣営内の情報に詳しい小谷教授が徹底解説。本誌「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より>

事前の世論調査に反して接戦となった要因は? また、ドナルド・トランプ大統領が描く「逆転勝利」のシナリオとは──。トランプ陣営内の情報に詳しい小谷哲男・明海大学教授に本誌・小暮聡子が聞いた(取材は11月5日午前)。
20201117issue_cover200.jpg

◇ ◇ ◇

――投票前の世論調査と比べて現時点での結果をどうみているか。

確かに各種世論調査が示していた状況とはやや違って、トランプ大統領がかなり踏ん張った感はある。しかし恐らく、このままジョー・バイデン候補が勝利を収めることになるだろう。かなりの接戦になったことで、トランプという存在が強く否定されなかったとも言える。

――投票日を迎えるまで、トランプ陣営はこの選挙の筋書きをどのように考えていたのか。

最悪の事態に備えて弁護士も用意し訴訟に備えてはいたが、他方で法廷闘争に持ち込まなくても勝てるというのがトランプ陣営の基本的な考え方だった。その根拠として、前回の選挙に比べてこの4年間で共和党員として有権者登録をした人の数が民主党よりも圧倒的に多い、と。

8つの激戦州に限って言えば、約18万人多いというのが彼らの計算だ。その18万人を掘り起こして確実に投票してもらえれば勝てると考えていた。

――訴訟に持ち込むまでもなく投票で勝てるとみていたのか。

そうみていた。コロナ禍において戸別訪問を地道に続けていたのも、有権者登録で増えた人たちを実際に投票させるためだった。トランプ自身もコロナに感染してもなお回復後に1日に何カ所も回るような支持者集会を開いて、とにかく投票しろと言っていた。

それによって、トランプは現時点で前回の大統領選よりも500万票も多く獲得している。ただ、勝利には手が届いていない。

――今回も、事前の調査と実際の結果にはギャップがあった。

前回より調査の精度は上がっていたが、一番読み切れなかったのは、トランプ陣営が開拓しようとしていた新しい共和党有権者の動向だ。彼らが実際に投票に行くかどうかは最後まで分からなかったが、ふたを開けてみるとある程度開拓できていた。

――新しく開拓されたトランプ票というのはどういう人たちなのか。

出口調査の結果などをきちんと分析してからでないと確かなことは言えないが、1つはトランプに希望を見いだした人たちだ。白人がこの先少数派になるという、その何とも言えない不安を抱えているときに、不安を払拭してくれるような政治家は今のところトランプしかいない。

また宗教面でも、バイデン自身はカトリックだが、彼の政策自体は中絶問題を含めてかなりリベラルなところがある。ヒスパニックには敬虔なカトリック信者が多く、フロリダの結果を見ていると、彼らはどうしてもバイデンに乗り切れなかったところがあったのではないか(編集部注:フロリダではヒスパニック有権者の47%がトランプに投票)。

――全米の結果を見ると、今回トランプが獲得したヒスパニックと黒人票の割合は、前回の大統領選に比べてそれぞれ4ポイントずつ伸びている。

黒人票の行方も含めて、今回は「ブレグジット」という動きに注目していた。イギリスによるEU離脱のBREXITではなく、BLEXIT、つまり「BLACK EXIT」だ。

世の中には黒人やヒスパニックなどの有色人種は民主党支持という前提があるが、そこに違和感を持っている人もいる。この運動は、有色人種であっても民主党を出て(エグジットして)共和党に入ろうと呼び掛けている。トランプがコロナで入院して退院し、ホワイトハウスで演説した際、集まっていた支持者がBLEXITのグループだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中