【調査報道】中国の「米大統領選」工作活動を暴く
THE NEW CHINA SYNDROME
それでもブライアントは台湾を訪れたが、そこに経済的な利害が絡んでくると話は別だ。ある米政府当局者によれば、「中国に進出している企業を抱えている、あるいは中国に大豆などを売って稼いでいる州の知事」に中国側が接近し、政財界の有力者を通じて米政府の政策に影響力を行使するよう求めてくる可能性は十分にある。
それ自体は国内のロビイストがやっていることと大差ないが、「問題はそれを外国の政府がしているという点だ」と、その当局者は強調した。
それでも他の諸国に比べると、アメリカは少なくとも最近まで、中国によるこうした工作の標的となることが少なかった。その背景には、最大の「敵」は慎重に攻めろという毛沢東流の戦術があると、前出のホン教授は言う。
「最強の部隊を結集して敵を個別撃破せよ。毛沢東はそう言っている。まずは周辺の小さくて弱い部分から攻めろということだ」
今の世界で言えば、まずはオーストラリアやカナダ、ニュージーランド、そしてイギリスを落とすということ。「彼らは現にそうしてきた。アメリカは最も手ごわい」からだ。
しかし、ついに中国はアメリカに照準を合わせてきたらしい。今年7月下旬には米国務省が、テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖した。長年にわたり、アメリカ南西部一帯で産業スパイや政治的な干渉を行ってきた証拠があるという。
「ヒューストンが拠点になったのは偶然ではない」と、司法省のジョン・デマーズ次官補は言う。テキサス州やその周辺にはエネルギー産業や先端技術の研究所が集積している。本誌の取材に応じた複数の情報源によれば、だからこそヒューストンが影響力行使と産業スパイの拠点に選ばれた。
FBIも中国人技術者などの捜査に乗り出しており、既に全米各地の「30都市で50人に尋問を行っている」という。しかも、これはまだ「氷山の一角」にすぎない。
米国内で影響力を行使するに当たり、中国は習の言う「魔法の武器」を駆使している。中国共産党中央委員会直属の機関「統一戦線工作部(統戦部)」だ。
海外工作費に6億ドルを使う
ASPIで中国政治を研究するアレックス・ジョスキによると、統戦部の下に「党外の集団に影響を及ぼすことを責務とする党・国家機関のネットワーク」が国内外で構築されている。
伝統的には海外在住の中国人社会で民族的な忠誠心に訴え、母国に恩返しをするように説得を重ねるシステムだ。誠意ある協力と引き換えに、当局側が経済的な恩恵を約束する例が多い。
たいていの関連団体は「中国海外交流協会」といった当たり障りのない名称を持つ。この統戦部のシステムと並んで、外務省にも「友好協会」と名の付く組織のネットワークがある。それらとつながるアメリカ側の団体は、もちろん中国共産党との接点には気付いていない。