最新記事

事件

フィリピン、ベテランジャーナリストが銃撃受け即死 ドゥテルテ政権下で19人目

2020年11月13日(金)17時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピンは表向きは「報道の自由」「表現の自由」が認められた民主主義国家ではあるが、ドゥテルテ大統領が就任した2016年以来、マスコミやジャーナリストへの治安当局の介入、政府による検閲、統制などが実質強化されている。

そして2016年以降、銃撃などで殺害されたマスコミ関係者は今回のマガネス氏で19人目となる。1986年のマルコス独裁政権崩壊までさかのぼると殺害された記者やジャーナリストは実に190人に上っている、とフィリピン記者組合は明らかにしている。

事実、マガネス氏以外にも、5月には東ネグロス州ドゥマゲテ市で地元ラジオ局レポーターが射殺され、9月14日にはルソン島南部ソルソゴン州カビドアンでオンラインニュースのコメンテーターがバイク走行中に襲撃されて死亡していた。

ドゥマゲテ市では4月と2019年12月にもラジオ局関係者が相次いで殺害される事件が起きている。

こうした殺害事件の多くが「正体不明の襲撃犯」による「マスコミ関係者への銃撃」で、「犯行動機の不明」に加えて「犯人の逮捕に至っていない」というのが共通した特徴となっている。

政府も事態重視、というが

今回のマガネス氏殺害事件について、ドゥテルテ大統領は大統領府に「メディア安全対策タスクフォース」を設置。関係者は「真相を明らかにするための捜査を警察と共に行い、必ずや犯人を見つけだして厳正に処罰する」として地元警察にマグネス氏の家族、知人、職場仲間などからの事情聴取を鋭意進めるよう指示したことを明らかにしている。

しかしこれまでもこうした「公式声明」は事件のたびに出されているが、実際に犯人が逮捕されて法の裁きを受けた事例は少ないのが実状だ。

こうした一方で、ドゥテルテ政権は大統領批判の報道を続ける独立系オンラインニュース「ラップラー」のマリア・レッサCEOへの不当逮捕や訴追を繰り返し、また民間テレビ局「ABS-CBN」の放送免許更新を拒否(現在はケーブル放送及びウェブニュースで活動)。政権批判を続けるメディアに強権的姿勢を続けており、フィリピンの「報道の自由」や「表現の自由」は風前の灯となっているといえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中