インドネシアのパプア人牧師殺害事件、国家人権委員会が独自調査 軍が学校に駐屯など新事実も
人権委のコイルル代表は「今後明らかにする我々の調査結果を政府は耳を傾けて聴くべきである。我々の調査は人権という立場からのアプローチで行ったものであり、政府の調査チームとは無関係の独立したものである」と強調し、近く公表される調査結果を政府も治安当局も謙虚に受け入れるべきとの立場を強調した。
慌てて調査結果公表急ぐ政府調査チーム
こうした人権委の調査チームの動きを受けて政府調査チームは17日に「我々の調査は終了した」として近くその調査結果を公表する方針であることがわかった。
同調査を主導した国家警察委員会関係者が地元マスコミに明らかにしたもので、マスコミ関係者からは「明らかに人権委の調査結果発表を意識して先手を打とうとしている」との見方が出ている。
学校を軍が接収、駐屯の事実も明らかに
また今回の現地調査で人権委調査チームにはエレミア牧師殺害現場となったヒタディバの学校関係者から「軍が勝手に学校の校舎を接収して兵士を駐屯させており、約100人の生徒の授業が妨害されている」という新たな事実も報告されたという。
こうした隠された事実も治安当局によるパプア住民への圧迫、人権侵害の実態を示しており、人権委では学校接収の事実をマフード調整相に懸念事項として伝えるとしている。
マフード調整相が任命編成した政府調査チームと、同じ政府機関ながら完全な独立機関である人権委の調査チームとでは、国民が寄せる期待も信頼も大きく異なる。
近く発表されるという双方の調査チームによる調査結果の公表でエレミア牧師殺害の真相が解明されることへの注目が高まっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など