最新記事

東南アジア

インドネシアのパプア人牧師殺害事件、国家人権委員会が独自調査 軍が学校に駐屯など新事実も

2020年10月19日(月)18時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

これに対し人権委の調査チームを率いたコイルル・アナム代表によると、人権委の調査チームは現地パプアの人権委支部の協力などによる現地調査を通じて「十分な情報」を住民からの聞き取りで得た。

さらにエレミア牧師の家族からの情報提供、現場検証による資料や情報を得ており、現在専門家による客観的な検証作業で「結論の中立性」の担保に務めているという。

政府調査と異なる独立性、公正性を強調

コイルル代表は10月17日に開いた記者会見で「エレミア牧師殺害事件は独立した一つの事件ではなく、インタンジャヤ県で2020年になってから連続して発生している一連の事件と関連した事件とみるのが正しい」との見解を示した。

そして「我々の調査チームは政府が指名、編制、派遣した調査チームとは一切関係がなく独立した調査を実施した」とマフード調整相(政治法務治安担当)の指示で調査を行った政府調査チームとは異なり「独立した調査チーム」であることを重ねて強調した。

マフード調整相の指示で編成された「政府調査チーム」は当初同調整相が「真相解明に客観的に全力で当たるよう指示した」としながら、蓋を開けたら警察や軍関係者が含まれたメンバー構成となり、現地パプアやマスコミからは「客観的で中立、公正な調査結果が期待できるメンバーでは到底ない」と批判が噴出。またパプアのキリスト教会団体からは「受け入れ拒否」が表明された。

こうした政府調査団のメンバーによる調査は住民や教会関係者の非協力的姿勢で迎えられた結果、十分な調査ができる状況ではなかったことが判明している。

人権委の調査結果への期待

パプアの人権問題を扱う団体やキリスト教会関係者は、今回の人権委の調査チームを歓迎し調査には積極的に協力したことから、いずれ発表される調査結果への期待が集まっている。特に殺害されたエレミア牧師の家族が人権委の関係者に対して「人権委の調査結果が正義を実現することにつながるよう期待する」と表明したとしている。

人権委の調査チームは、パプア州を訪問している間、地元パプア教会協議会から「政府に宛てたパプアへの軍や警察の増派を中止するようにとの書簡を受け取った」とし、現地住民の多くが治安部隊によらない平和的なパプア問題の解決を望んでいることをインドネシア政府に伝えたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月求人件数、19万件減少 関税懸念で労働需要抑

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中