最新記事

教育

6割が不詳・死亡などの「不安定進路」という人文系博士の苦悩

2020年10月22日(木)15時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

新卒一括採用の慣行が根強い日本企業では、年齢を重ねた博士は受け入れられにくい gorodenkoff/iStock.

<人文・社会科学、芸術といった文系専攻を筆頭に、日本の大学院博士課程修了者の就職をめぐる現実は極めて厳しい>

昨今、日本の研究力低下が言われているが、それは博士号学位取得者の減少に如実に表れている。2005~16年にかけて、主要先進国では学位取得者が増えているのに対し、日本は減っている(科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2020」)。大学院博士課程入学者も、2003年の1万8232人をピークに減少に転じ、2019年では1万4976人にまで減っている。

博士課程修了者の行き場がないことが知れ渡ってきているためだろう。旧帝大で文学の博士号を取得し、日本学術振興会の特別研究員(SPD)に採用され、学士院賞まで取った研究者が、どこにも受け入れられず絶望して2016年に自殺した。これほどまで優秀な人でも就職先がない、という現実がある。

博士課程修了者の進路が厳しいことは、統計にはっきりと出ている。<図1>は、2019年春の進路内訳を帯グラフにしたものだ。

data201022-chart01.jpg

人手不足の状況もあり、大学学部卒業生では正規就職率が8~9割に達するが、大学院博士課程修了者はそうではない。最も高い保健専攻(医学、歯学、薬学)でも7割ほどで、最も低い人文科学では2割だ。

その代わり人文科学では、不穏な藍色のゾーンが垂れてきている。バイト、その他(進学でも就職でもない)、不詳・死亡という進路だ。人文科学では、これらの不安定進路の比率が6割にもなる。社会科学と芸術でも、不安定進路の比重が高い。

不詳・死亡というカテゴリーだが、多くは連絡が取れず調査不能だったという人だろう。死亡率というのではない。しかし、修了して間もない5月時点で音信不通というのは穏やかではない。就職が厳しい人文・社会や芸術で高いことからして、行き場がない人の量的規模を表していると見て取れる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中