6割が不詳・死亡などの「不安定進路」という人文系博士の苦悩
新卒一括採用の慣行が根強い日本企業では、年齢を重ねた博士は受け入れられにくい gorodenkoff/iStock.
<人文・社会科学、芸術といった文系専攻を筆頭に、日本の大学院博士課程修了者の就職をめぐる現実は極めて厳しい>
昨今、日本の研究力低下が言われているが、それは博士号学位取得者の減少に如実に表れている。2005~16年にかけて、主要先進国では学位取得者が増えているのに対し、日本は減っている(科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2020」)。大学院博士課程入学者も、2003年の1万8232人をピークに減少に転じ、2019年では1万4976人にまで減っている。
博士課程修了者の行き場がないことが知れ渡ってきているためだろう。旧帝大で文学の博士号を取得し、日本学術振興会の特別研究員(SPD)に採用され、学士院賞まで取った研究者が、どこにも受け入れられず絶望して2016年に自殺した。これほどまで優秀な人でも就職先がない、という現実がある。
博士課程修了者の進路が厳しいことは、統計にはっきりと出ている。<図1>は、2019年春の進路内訳を帯グラフにしたものだ。
人手不足の状況もあり、大学学部卒業生では正規就職率が8~9割に達するが、大学院博士課程修了者はそうではない。最も高い保健専攻(医学、歯学、薬学)でも7割ほどで、最も低い人文科学では2割だ。
その代わり人文科学では、不穏な藍色のゾーンが垂れてきている。バイト、その他(進学でも就職でもない)、不詳・死亡という進路だ。人文科学では、これらの不安定進路の比率が6割にもなる。社会科学と芸術でも、不安定進路の比重が高い。
不詳・死亡というカテゴリーだが、多くは連絡が取れず調査不能だったという人だろう。死亡率というのではない。しかし、修了して間もない5月時点で音信不通というのは穏やかではない。就職が厳しい人文・社会や芸術で高いことからして、行き場がない人の量的規模を表していると見て取れる。