タイ、国会議場で野党議員が3度腕を切る「流血の抗議」 反政府デモの混乱は政界にも影響
これに対しツイッター上では「自分以外誰も傷つけていない行為に敬意を示す」「政府の圧制、今起きている問題を解決しようとしない政府への抗議であり、人々の闘いへの支持である」などとウィサルン議員の行為への称賛の声が相次いでいるという。
出口の見えない反政府運動への対処
プラユット首相は連日続く市民を巻き込んだ学生による大規模デモへの対処に苦慮している。10月15日に「5人以上の集会禁止」などを内容とする「非常事態宣言」を行ったものの、デモ隊側はこれを完全に無視。デモを継続したため22日に解除に追い込まれている。
このためプラユット首相は26日から臨時議会を招集して学生が求める要求の一つである「憲法改正」について前向きの議論を進めることを表明、協議が続いている。
プラユット首相は憲法改正のための「国民投票を実施する用意がある」ことまで表明しているが、デモ隊が求める「首相の辞任」は拒否し「王室改革」には否定的姿勢に終始している。
こうしたなか、ワチラロンコン国王が1年の大半滞在しているドイツでも政府が「もしドイツ国内で国王が国事行為をしていたら、それは問題だ」との認識を示すなど、「王室改革」は国際問題にも発展しようとしている。
バンコクでは国王支持派によるデモも起きており、反政府デモ隊との間で小競り合いも起きている。
今回の反政府デモに対し「憲法改正」で事態を打開しようとするプラユット政権側と、あくまで「プラユット首相辞任」と「王室改革」、さらに「議会解散」を求める反政府デモ側による攻防だが出口や落としどころが全く見えない状況が続いておりさらに混迷を深めようとしている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など