アルメニアとアゼルバイジャンの戦闘開始に合わせるかのようにトルコは自由シリア軍を派遣:その真相は?
シリア人傭兵300人以上がアゼルバイジャンに
英国を拠点とするNGOのシリア人権監視団は9月27日、シリア人傭兵300人以上がアゼルバイジャンに到着したことを確認したと発表した。
到着したのは、トルコが派遣を予定している傭兵の第1陣で、「オリーブの枝」地域(アレッポ県アフリーン郡)で活動する国民軍所属のスルターン・ムラード師団、アムシャート師団のメンバー。毎月1,500~2,000米ドルの報酬を与えられるという。
彼らは、数日前に「オリーブの枝」地域を出発し、アンカラを経由して、空路でアゼルバイジャン入り、近々第2陣もアゼルバイジャンに派遣されるという。
アルメニアとアゼルバイジャンの両軍の戦闘が始まった当日のことだった。
投稿された2本の映像
SNSではまた、アゼルバイジャンに派遣されたシリア人戦闘員を撮影したとされるビデオが2本投稿された。
1本目の投稿は、シリア人傭兵数百人を乗せた四輪駆動車の車列がアゼルバイジャン国内の基地を出発し、アルメニアとの国境地帯に向かっているとされる映像で、住民がアゼリー語で車列に声援を送る音も収録されている。
2本目の投稿は、アゼルバイジャンで負傷したとされるシリア人戦闘員が次のように訴える映像である。
若者よ、君たち、そして君たちよ、アゼルバイジャンを見てみろ。若者よ、君たち、そして君たちよ、戦闘地域を離れるな。我々の喉元に目的があり、我々の喉元に拘束されている女たちがいる。
「革命家」の悲痛なメッセージ
シリア人傭兵にアゼルバイジャンに来ないよう警告するこの映像はしかしフェイクだった。
シリアの反体制系検証サイトのタアッキド(Verify-sy)が9月27日に明らかにしたところによると、映像はイドリブ県内で撮影されたもの。男性の名前はアスアド・アブドゥルハミード・イブラーヒーム(通称アブー・マスアブ・シャンナーン)で、シャーム解放機構とともに「決戦」作戦司令室を結成し、イドリブ県でシリア軍と戦闘を続ける国民軍傘下の国民解放戦線に所属するシャームの鷹の大隊メンバーだという。映像は、イブラーヒームがイドリブ県ザーウィヤ山地方での最近の戦闘で負傷し、イドリブ市内のハヤート病院で治療を受けている際に撮影されたもので、現在はイドリブ県ラアス・ヒスン村近郊にいるという。
イドリブ県では、2月から3月にかけて、シリア・ロシア軍とトルコ軍・「決戦」作戦司令室が激しく交戦し、前者が同県南部を制圧した。これを受けて、3月5日、トルコとロシアは停戦合意を交わし、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路の安全を確保するための連携を強め、これに抗う勢力への締め付けを強化している。
最近では、トルコとロシアがM4高速道路以南の反体制派支配地をシリア政府の支配下に復帰させることに合意したとの情報もあり、トルコにとって反体制派の利用価値は低下している。
これまでたびたび報じられてきたリビアへのシリア人傭兵の派遣は、不要となった反体制派をシリアから排除するための一石二鳥の策だったとも言える。イドリブ県に続いて、リビアでも戦闘が収束に向かおうとしているなか、今度はアゼルバイジャンがカネで雇われた反体制派の「捨て場所」になっているかのようだ。
イブラーヒームのフェイク画像は、シリア政府やレバノンのヒズブッラーに近いマヤーディーン・チャンネルのレポーターなどが拡散したとされる。だが、そのフェイクのなかには、「自由」と「尊厳」の実現をめざす「シリア革命」の「革命家」たちの悲痛なメッセージが込められている。
●追記(2020年9月29日)
「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」の以下の記事も合わせてご覧下さい。
「国民軍はトルコがアゼルバイジャンにシリア人傭兵を派遣していることを認める(2020年9月28日)」
「アルメニア政府はトルコによってアゼルバイジャンにシリア人傭兵4,000人が派遣され、うち81人を殺害したと発表(2020年9月28日)」
「アゼルバイジャン、トルコはシリア人傭兵の派遣を否定:「アルメニア側からの新たな挑発」(2020年9月28日)」
●ヤフーニュース個人より転載