最新記事

インドネシア・パプアで牧師射殺 軍と武装組織が非難の応酬、航空機運航に支障出る?

2020年9月25日(金)11時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアのパプア教会主任(左)と殺害されたエレミア牧師(右) KOMPASTV / YouTube

<キリスト教の牧師殺害には治安勢力と武装勢力の衝突の連鎖が関係するという──>

インドネシアの東端、ニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領パプア地方(西パプア州、パプア州)ではこのところ軍や警察といった治安部隊と独立を求める武装組織による衝突が頻発しているが、中央山間部でキリスト教の牧師が何者かに射殺される事件が発生した。

こうした事件がパプアで発生すると治安部隊と武装組織側がお互いに責任をなすり合うのが通例になっているが、今回も例外ではなく軍と武装組織がそれぞれ射殺への関与を否定し、「聖職者射殺」は相手の非道な犯行であると厳しく非難している。

キリスト教プロテスタントが51%、カトリックが5%と多数を占めるパプア州でキリスト教指導者が殺害されることはあまり例がなく、最近頻発し、エスカレートしている双方の衝突が新たな段階に入ったとの見方もでるなど、現地では緊張が高まっているという。

詳細不明の牧師射殺

パプア州の中部山間部にあるインタンジャヤ県ヒタディパ地区で9月19日、現地のプロテスタント教会に所属するエレミア・ザナンバニ牧師が正体不明の男に銃撃されて死亡する事件が起きた。

現場が遠隔地であることに加えてマスコミの自由な取材が許されていない地域であることなどから、エレミア牧師射殺が最初に伝わったのが軍による発表であることもあり、殺害に至った詳しい状況や経緯は未だに明らかになっていない。

ただ、事件発生を受けてパプア州警察や地元の陸軍幹部は相次いで「牧師は現地の犯罪組織のメンバーによって殺害された」と声明を出した。

治安当局が「犯罪組織」と呼ぶのは実はパプア地方で細々とだが独立を求めて武装闘争を続ける「自由パプア運動(OPM)」とその分派とされる「西パプア民族解放軍(TPNPB)」を指していることが多く、今回もTPNPBの関与を治安当局は疑っている。

また別の治安当局者は「牧師射殺時に兵士や警察官は付近には誰もいなかったので事件に関与したことはあり得ない」ともマスコミに語っている。現地パプア人組織からは「現場にいなくてどうしてTPNPBの犯行と言えるのか」と当然の疑問を示されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中