最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

歴史で読み解く米中「新冷戦」の本質──再び敵対関係に逆戻りした本当の理由

HISTORY REPEATS: BACK TO CONFLICT

2020年9月24日(木)17時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

1972年のニクソン(右)と毛沢東の電撃的な首脳会談は世界を変えた Richard Nixon Presidential Library and Museum / Public domain

<対決ムードに拍車が掛かるアメリカと中国。20世紀における両国の関係史をひもとくことなしにこの対立の今後と世界情勢は見通せない。本誌「誤解だらけの米中新冷戦」特集より>

20世紀におけるアメリカと中国の関係には複数の転換点があり、そのたびに両国の関係は劇的な変化を経験してきた。そして今、両国は新たな転換点を迎えている。第37代米国大統領リチャード・ニクソンが中国との戦略的和解に舵を切ってから約半世紀。気が付けば両国は再び、地政学的にもイデオロギー的にも露骨な敵対関係にある。
20200922issue_cover200.jpg
軍事とイデオロギーの両面で、アメリカと中国が初めて敵対したのは1949年のこと。毛沢東の率いる中国共産党が国民党軍を追い落とし、中国本土に共産主義の全体主義政権を樹立した時だ。

それまでのアメリカは、一貫して中国を支援していた。2度の世界大戦も同じ側に立って戦った。もちろんそれは対等な同盟関係ではなかった。20世紀前半の中国は今日のような経済大国ではなかった。長きにわたる皇帝の支配が終わり、内戦に揺れ、侵略に怯える破綻国家だった。

そして当時のアメリカは、同情心ゆえか国益のためかは別として、欧州列強とは異なる道を選んだ。慈善団体や宗教団体をせっせと送り込む一方、1937年に日本軍の侵略が始まってからは、外交的手段でひたすら中国側を支えた。

それが1950年に一変した。内戦に勝利した中国共産党が、当時のアメリカにとって最大の敵であったソ連と手を組んだからだ。それからの20年間、米中両国は外交関係も経済関係も断ち、血みどろの紛争にまで突き進んだ。1950年代には朝鮮半島で激突したし、台湾海峡でも一触即発の状況まで行った。続く1960年代には東南アジアで代理戦争を繰り広げた。

とりわけ深刻だったのは朝鮮戦争だ。中国は戦場で92万もの死傷者を出したが、はるかに強力なアメリカを敵に回して引き分けに持ち込むという大きな成果を得た。しかし中国の払った代償も大きい。アメリカは中国との貿易関係を完全に断ち、台湾と相互防衛条約を締結して、台湾奪還という中国側の野望を打ち砕いた。中国の核開発施設に対する空爆を検討した時期もある。

中国側がリベンジする機会は1960年代に訪れた。ベトナム戦争である。当時の中国は、惜しみなく北ベトナム軍を援助していた。

次の転機が訪れたのは1971年。ソ連の脅威が米中を結束させた。既に中国はイデオロギー面でソ連とたもとを分かっていた。1969年には中ソ国境付近で何度か軍事衝突が起き、ソ連は30万の兵力を国境地帯に配備、核兵器の使用も検討していたとされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中