最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

歴史で読み解く米中「新冷戦」の本質──再び敵対関係に逆戻りした本当の理由

HISTORY REPEATS: BACK TO CONFLICT

2020年9月24日(木)17時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

そこでアメリカが動いた。ニクソン政権の国家安全保障問題担当補佐官だったヘンリー・キッシンジャーは、いまアメリカが中国政府に接近すれば地政学的な力のバランスが動き、アメリカは宿敵ソ連に対して優位に立てると考えた。そこで、まずはキッシンジャーが1971年7月にひそかに訪中。歴史的なニクソン訪中は翌年2月だった。両国関係の完全な正常化は1979年まで待たねばならなかったが、ともかくアメリカの対中政策は封じ込めから「関与」へと転換したのだった。

もちろん、この転換は一朝一夕に起きたのではない。「関与」の目的は時代によって変化してきた。

1972年から89年までは、宿敵ソ連に対抗する安全保障上の準同盟国という位置付けが大きかった。典型的なのは1980年代。現実主義者の鄧小平が率いる中国とアメリカは友好的な関係を維持できた。中国側も、それが貧困からの脱出に不可欠なことを承知していた。

しかし、この蜜月時代は2つの出来事によって終止符を打たれた。まずは1989年6月の北京・天安門広場における民主化運動の圧殺。これで米中関係は一気に冷え込んだ。そして1991年にはソ連が自滅して冷戦が終結。これで、アメリカが東アジアの共産主義独裁国に関与し続ける戦略的な価値はなくなった。

だからアメリカは1990年代前半に中国の位置付けを変えた。もはや中国は安全保障上のパートナーではないが、国際的に孤立させれば新たな、そして危険な敵になり得ると考えた。そこで選択されたのが、「ヘッジ政策」という戦略だ。中国への関与は継続する一方、中国の台頭に対しては先端技術の移転禁止や、日本や韓国との安全保障面での同盟強化で対抗し、将来的なリスクをかわす戦略である。

実を言えば、このヘッジ政策には米国内でも批判が絶えず、中国政府からも疑念を持たれていた。しかし、ともかく1990年代はそれで乗り切れた。1990年代半ばに台湾海峡を挟んだ危機が高まった時期はあるが、それでも熱い戦争にはならなかった。

アメリカが「関与」を続けた訳

ソ連崩壊からの約20年で、この限定的な関与政策が初めて揺らいだのはジョージ・W・ブッシュ政権が発足した2001年だ。同政権を牛耳るタカ派は中国を最大の脅威と見なして徹底した封じ込めを唱えた。同年4月には米軍の偵察機と中国の戦闘機が海南島上空で空中衝突する事件が起き、一気に緊張が高まった。

一触即発の危機だったが、9月11日にアメリカ本土で同時多発テロが起き、流れが変わった。ブッシュ政権はアフガニスタンとイラクに攻め込んで戦争の泥沼にはまり、中国を相手にする余裕を失った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中