米中新冷戦の主戦場はサイバー攻防戦
U.S., China's Cold War Is Raging in Cyberspace
以後アメリカでは司法省が、中国に拠点を置くハッカー集団の動きに目を光らせてきた。中国人ハッカーは自国企業と競合する米企業をつぶすため、設計や技術、事業戦略などを大量に盗んでいた。標的になった企業は、鉄鋼大手のUSスチール、アルミニウム大手のアルコア、原子力発電大手のウェスティングハウス・エレクトリックなど多岐に及ぶ。
気になるのは、こうしたハッカー集団が防衛産業を標的に据えたらどうなるかだ。
「中国政府は、『軍民融合』と称する国家戦略を通じて、軍備の現代化の野望を追求している」と、トランプ政権の高官は本誌に語った。「民生部門と軍需産業の伝統的な垣根を取り払い、軍事技術を急成長させて、人民解放軍の戦闘能力を高める戦略だ」
中国に自由で独立した民間部門がないことが、この戦略を可能にしている。
前述の当局者は「中国の民間組織は、習近平の『強軍思想』を支持するよう指示され、共産党・政府に取り込まれている」と指摘する。「共産党の権力者から協力を指示されれば、それを断るという選択肢はない」
中国政府はこの軍民融合戦略で、特にアジア太平洋地域において、世界で軍事的に優位な立場を維持している米国防総省との差を縮める手段を得ている。
「中国は多くの場合、産業スパイや不透明な提携関係、海外での学術交流の不正操作などを通じて、軍事作戦上の目標を追求している」と、この当局者は言う。
軍民融合戦略は、習の目標達成を手助けするためにつくられた、複雑に絡み合う戦略の一部だ。「軍民融合は、一帯一路イニシアチブをはじめとする中国の他の戦略も補完している」
一帯一路イニシアチブは中国の世界的なマスタープラン(基本計画)の一部で、建国100周年である2049年の計画完了を目指している。2000年近くにわたって世界貿易の独占を可能にした交易路「シルクロード」を模した計画で、世界銀行によれば、70を超える国や組織がその投資範囲に含まれている。
技術入手が最も巧みな国
米国防総省はその脅威を深刻に受け止めており、「中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書」の中でも同イニシアチブに言及している。
報告書は、中国が幅広い標的に対してさまざまな方法を駆使して情報を入手していると警告。「中国は外国の技術を入手するために、合法・非合法を問わず、さまざまな方策を追求している」と述べ、こう指摘した。「中国は軍の近代化という目標を前進させるために、機密技術や軍民両用の技術、軍用設備を入手すべく幅広い実践や手段を講じている」
さらに報告書はこう続けた。「中国は海外の投資や営利目的の合弁事業、企業の吸収・合併や国が支援する産業・技術スパイ、さらには軍民両用技術を違法に転用するための輸出管理の操作を利用して、軍事研究や開発などのための技術や専門知識を増やしている」。報告書によれば、昨年はその一環としてランダム・アクセス・メモリ(RAM)や航空技術、対潜水艦作戦用技術の入手を試みたという。
米陸軍の元将校で現在はシンクタンク「ジェームズタウン財団」の非常勤研究員を務めるマット・ブラジルは、「中国政府は、自国の産業と国防を強化するために、外国の民間および軍の技術を入手するのが歴史上、最も巧みな国だ」と本誌に語った。