米中新冷戦の主戦場はサイバー攻防戦
U.S., China's Cold War Is Raging in Cyberspace
米政府の防諜活動に協力してきた企業の1つがクラウドストライクだ。サイバーセキュリティの有力企業で、ソニー・ピクチャーズを狙った2014年のハッキング事件や、2016年の大統領選前に発覚した民主党全国委員会のメール流出事件など、よく知られた事件の捜査にも協力してきた。
クラウドストライク・サービシーズの社長で、FBIの元次官補でもあるショーン・ヘンリーは、分かりやすい例え話で自社の役割を説明した。
「外国の戦闘機がアメリカの領空を侵犯したら、空軍がスクランブル(緊急発進)をかけて、侵入機を追い出す。同様に、外国の戦艦がアメリカの領海に入った場合も、米軍が即座に対応する」
サイバー空間ではそうは行かないと、ヘンリーは言う。
「仮想空間では、米政府には外国の侵入に対処する能力ないし権限がない」
政府に代わって「こうした攻撃を探知し、マルウェアの動きを止めて、敵の攻撃を無効にする技術を提供する」のが民間部門、つまりクラウドストライクのような企業だ。
それでも侵入は日々起きている。米司法省は9月16日、アメリカや日本など世界の100社以上の企業にサイバー攻撃を仕掛けた容疑で、中国籍のハッカー5人を起訴したと発表した。容疑者らは技術情報を盗んだほか、「身代金」目的でシステムを使用不能にするランサムウェア攻撃も行なっていたとみられる。
大企業が潰れることも
国際法律事務所ドーシー&ホイットニーのパートナーで、司法省の法廷弁護士や海軍長官の特別顧問を務めたロバート・カタナックによれば、「米情報機関は、アメリカの知的財産をサイバー攻撃から守るか、少なくとも損失を最小限に抑えようと、中国政府系ハッカーと日夜、熾烈なサイバー攻防戦を繰り広げている」。
司法省の発表は「その実態を垣間見せるものだった」と、カタナックは本誌に宛てたメッセージで述べた。「司法省の発表で、企業は悪い連中を締め出すサイバーセキュリティの重要性を痛感したはずだ。悪い連中の侵入を察知し、アラートを発するシステムがいかに重要か理解してもらえただろう。悪い連中が本気になれば、彼らの侵入は防げないのだ」
サイバー攻防戦はコストのかかる「いたちごっこ」で、終わりは見えないとカタナックは言う。
「こちらが手を打てば、敵は対抗手段を編み出す。そのプロセスが際限なく繰り返される。予算はどんどん膨らむし、ビジネスの優先順位を考えると、非常に厄介だ」
サイバー攻撃が壊滅的なダメージをもたらすこともある。
カナダの通信機器大手ノーテル・ネットワークスがあっという間に凋落し、2009年に破綻に追い込まれたのも、中国政府系ハッカーの仕業だと、専門家や内部関係者はみている。長年にわたる組織的なサイバー攻撃で機密データをごっそり盗み取られ、人材まで奪われたノーテルは、自社から流出した情報が、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の急成長に役立ったと認めている(ファーウェイ側は一貫して否定)。