「ワクチンにもハラル認証が必要」 副大統領務めるイスラム教指導者 命か宗教か、選択迫られるインドネシア
つまり個人防護具を着用した医療関係者がその服装でイスラム教の祈りをする際に通常の手順を踏まなくても可能とする事例」を例外として認めることや「医療現場での手指、手袋などを消毒するアルコール成分をどうするか」などに関する見解としてファトワを発し、イスラム教徒に対して「ガイダンス」を与えている。
医療か宗教か、政府に迫られる判断
もちろんインドネシアでは国是「多様性の中の統一」で認められているキリスト教徒、ヒンズー教徒、仏教徒に関してはこの「ファトワ」は無関係で、一刻も早い有効なワクチンの開発と投与への期待が高まっている。
しかし圧倒的多数を占めるイスラム教徒の指導的立場にあり、副大統領という要職にあるアミン副大統領の「ファトワの準備を進めよ」との発言は影響力が大きく、今後有効なワクチンが開発されてもその成分にイスラム教徒が禁忌とするものが含まれていた場合、果たして医療機関による投与の許認可が正式に得られるのかどうかが焦点となる。
保健省保健研究開発局担当者は「ウイルス対策はまだ研究段階だが、インドネシアではフェーズ3段階の臨床試験を現在実施している」としており、エリック・トヒル国営企業相は国営企業の「バイオファーマ社」が進めているワクチン開発では2020年末までに2億5000万回分のワクチンが準備できるとの見通しを明らかにしている。
官民、医療・研究機関がワクチン開発に全力を挙げている最中、イスラム教組織からの「成分によっては大多数の国民が服用、摂取できない可能性について調査開始」というニュースは、一部のイスラム教関係者からは「当然のこと」と歓迎されている一方で「コロナ感染対策という最優先課題に疑問を投げかけるもの」との見方もある。だが、圧倒的多数を占めるイスラム教徒を前に声を潜めざるをえないのが現状といえる。
ジョコ・ウィドド政権は「命に関わる医療か、宗教か」という難しい選択を今後迫られることだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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