最新記事

宇宙

太陽の黒点のクローズアップ 最新高解像度画像が公開された

2020年9月8日(火)17時00分
松岡由希子

太陽表面の黒点とその周辺 KIS

<欧州最大の太陽望遠鏡「グレゴール(GREGOR)」は、太陽の微細構造を鮮明に撮影することに成功した...... >

ドイツの研究チームによって開発された欧州最大の太陽望遠鏡「グレゴール(GREGOR)」は、2012年にスペイン領カナリア諸島テネリフェ島のテイデ観測所で設置され、2018年から、アップグレード(性能向上)のための研究開発がすすめられてきた。そしてこのほど、一連のアップグレードが完了し、太陽の微細構造を鮮明に撮影することに成功した。

太陽望遠鏡を再設計しアップグレード

グレゴール太陽望遠鏡は、直径140万キロメートルという巨大な太陽のうちの50キロメートルを地球から詳しく観測できる。いわば、1キロメートル離れた場所から、サッカー場にある針を見るようなものだ。

研究チームは、最高の画質を実現するために、わずか1年で、グレゴール太陽望遠鏡の光学系、メカニクス系、エレクトロニクス系を完全に再設計した。このプロジェクトを主導した独キーペンホイヤー太陽物理学研究所(KIS)の物理学者ルーカス・クライント博士は「非常に刺激的であると同時に、極めて大変なプロジェクトでもあった」と振り返った。

キーペンホイヤー太陽物理学研究所のディレクターを務めるアルベルト・ルードヴィヒ大学フライブルグのスベトラーナ・バデュジナ教授も「このような望遠鏡のアップグレードには通常、数年を要するため、このプロジェクトにはリスクがあったが、素晴らしいチームワークと綿密な計画立てが実を結んだ」と成果を高く評価している。一連の研究成果は、2020年9月1日、学術雑誌「アストロノミー&アストロフィジックス」で公開されている。

csm_IMG_2927comb_b32286f066.jpg欧州最大の太陽望遠鏡「グレゴール(GREGOR)」 KIS

黒点の進化とその複雑な構造が高解像度で映し出されている

望遠鏡の光学系は、鏡やレンズ、ガラスキューブ、フィルターなどから構成される複雑なシステムだ。わずか1つの要素に不具合があるだけで、システム全体のパフォーマンスに影響を及ぼし、望遠鏡に影響をあたえている要素を見つけ出すことさえ、非常に力量が問われる。研究チームは、毛髪の直径の1万分の1程度にまで磨いた軸外放物面鏡に入れ替えることで、乱視のように、画像がぼやけて歪む現象を解消した。

主な技術的成果は、すでに3月に達成されていたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う都市封鎖により、7月にようやく、アップグレードされたグレゴール太陽望遠鏡による太陽観測がテイデ観測所で行われた。
グレゴール太陽望遠鏡によって516ナノメートルの波長で撮影された画像では、太陽プラズマでの黒点の進化とその複雑な構造が高解像度で映し出されている。

granules.jpgKIS

430ナノメートルの波長で撮影された動画では、太陽表面の黒点とその周辺の動きが確認できる。黒点は、周辺よりも温度が低いため、黒く見える。

ハワイのハレアカラ天文台でも太陽表面の撮影に成功

高解像度の太陽観測が可能な太陽望遠鏡としては、グレゴール太陽望遠鏡のほか、米ハワイ州マウイ島のハレアカラ天文台の「ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡」も、2020年1月29日、詳細な太陽表面の撮影に成功している。

バデュジナ教授が「グレゴール太陽望遠鏡のアップグレードにより、私たちは太陽の謎を解くための強力な手段を手に入れた」と述べているとおり、太陽望遠鏡の進化によって太陽磁場や対流、乱流、黒点など、太陽にまつわる様々な謎の解明につながると期待が寄せられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中