ラストベルトで育った若者のリアル『行き止まりの世界に生まれて』
Lost and Found
「ザックはみんなの関心の中心にいたいんだ」と、リューは言う。「私とカメラはそのはけ口になっていたが、時間の経過とともにそれも変わっていった」。撮影後、完成した映画を見たザックの目には涙が浮かんでいた。もっとひどい描かれ方をしていると思い込んでいたので、ほっとしたのだとリューは言う。
「2人でじっくりと話をした。彼のことだけじゃない。キアーや私のことについてもちゃんと話をしてくれた。どこか変えたい部分はあるかと尋ねたが、彼はないと答えた」
ポップカルチャーの世界では、アメリカ中部で育った若い男というだけで勝手なイメージを与えられる傾向がある。ザックは言う。「社会からは死ぬまで『男らしくしろ、おまえはタフなんだ、強いんだ、マルガリータなんざゲイの飲むものだ』と言われ続ける」。子供の頃からずっとそういうものだと刷り込まれてきたから、そのとおりに振る舞っているというわけだ。
レッテル貼りはお断り
ザックとニーナはまさにドナルド・トランプの支持層である「忘れ去られた人々」で、実際にザックはトランプの支持者だった。「父親があまりに保守的だと思って実家を飛び出したのに、その後、ザックの思うように物事は進まなかった」と、リューは言う。
だが作品に下手に色が付くのを嫌ったリューは、ザックのトランプ支持の話はカットした。「たとえ白人で給料が労働者階級並みだったとしても、ロックフォードの人々は自分たちのことをいわゆる『労働者階級の白人』だとは思っていない」と、リューは言う。メディアがそんなレッテルを貼るのは「共感の欠如」と「上から目線」のせいだとリューは考えている。
ザックは本作がサンダンス映画祭で上映された後、ある映画監督から低予算映画の主役のオファーを受けた。ニーナはザックと別れ、2つの仕事を掛け持ちしている。本作の上映会場で、家庭内暴力について話したりもしている。
キアーはデンバーのサラダショップで仕事を見つけ、恋人とフェニックスに引っ越すことが夢になった。本作の終盤でリューはキアーにこう語る。「僕がこの映画を作っているのは、義父から暴力を受けていたけれど、そのことに全く納得がいかなかったからだ。君の語る物語の中に、僕は自分自身を見いだした」
驚いた様子のキアーだったが、ようやく口を開いてこう言った。「すげえや、ビン。そんなこと考えもしなかった。むちゃくちゃクールだな」
本作ほど個人的な作品を作ることはもうないだろうとリューは言う。「10代後半から20代初めの時期を清算しないままで30代に突入し、仲間を失う年代を迎える人は多い。単に連絡が途絶える場合もあれば、ロックフォードではよくある話だがドラッグや自殺が原因ということもある」と彼は語る。「この映画は、自分がそんな落とし穴に陥らないための手段だった」
<本誌2020年9月8日号掲載>
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