最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業

THE RETREAT FROM GLOBALIZATION

2020年9月7日(月)11時10分
ウィリアム・ジェーンウェイ(ベンチャーキャピタリスト)

バングラデシュには世界の大手ファッションブランドの工場がひしめいている(今年5月、新型コロナのパンデミック後に再開された首都ダッカの工場) MOHAMMAD PONIR HOSSAIN-REUTERS

<極端なグローバル化への反動と新型コロナの流行、そして米中対立によってサプライチェーンが壊滅しつつある。この危機への世界の反応は態勢を整えるための撤退か、退却を余儀なくされた敗走か。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」より>

18世紀後半に産業革命が始まって以来、世界経済は2つの大きなグローバル化の波を経験してきた。そして今、明らかに第2の波からの後退が進んでいる。これは、防御しやすい態勢を整えるための秩序ある後退なのか。それとも退却を余儀なくされた敗走なのだろうか。
20200901issue_cover200.jpg
グローバル化の最初の大波は、1914年に第1次大戦の勃発とともにピークを迎えた。この波を推進した革新的な技術──鉄道、蒸気船、電信、電話──は、人、資本、情報が国境を越えて移動する際の摩擦を大幅に減少させた。

1980年代に始まった第2波は、中国の改革開放政策とソ連崩壊によって加速した。情報通信技術のおかげで資本、モノ、サービスの国境を越えた移動がかつてないほど容易になり、アウトソーシングやリモートワークという新時代の幕が上がった。

この第2波が現在、複数の局面で本格的に後退しているようだ。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻を皮切りに、まず金融のグローバル化の後退が始まった。

2つ目の後退は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、国境をまたいで統合されていたサプライチェーン(原材料や部品の調達から製造、消費者の手に届くまでの流れのこと)が壊滅しつつあることだ。さらに、アメリカ・中国間の緊張が高まるなか、多くの国が戦略的に機密性の高い製品や物資を確保しようと画策していることも、サプライチェーン崩壊のプロセスを激化させている。

多国籍企業も「脱グローバル化」の別の局面に寄与している。多くの多国籍企業が通商条約を利用して、労働市場や環境規制、知的財産権制度に関する国の政策に影響を与え、さらには覆そうとする一方で、企業自身は政府や規制からの独立性を主張してきた。彼らはまた、今日のテクノロジーがもたらす制度的な機動性を最大限に利用して、税負担が最も低い地域に利益を移している。

ただし、こうした超国家的な傾向は10年ほど前から逆風にさらされている。ハーバード大学のダニ・ロドリック教授は2008年の金融危機の前から、「極端なグローバル化」の最新局面が政治的なトリレンマ(3つの選択肢のうち1つを諦めなければならない状況)を生み出すと警告していた。「民主主義、国民主権、グローバルな経済統合は互いに相いれない。3つのうちの2つは組み合わせられても、3つを同時に、完全に並立させることはできない」

【関連記事】コロナ禍で逆にグローバル化を進めるテロ組織とあの国

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏財務相、予算協議は「正しい方向」 不信任案可決の

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年は2.1%と予想=ECB

ビジネス

アングル:米で広がる駆け込み輸入、「トランプ関税」

ビジネス

ドイツ失業率、1月6.2%に上昇 景気低迷が雇用に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中