世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業
THE RETREAT FROM GLOBALIZATION
グローバル化のさまざまな局面の中で、まず最初に疑問視されたのは金融統合だ。2008年の金融危機は、グローバル化した金融市場の脆弱さを露呈させた。
金融機関は「効率性」を執拗に追求して自己資本から最大限の利益を搾り取ったが、その結果、レジリエンス(回復力)が危険なほど損なわれた。バブルが崩壊すると、FRB(米連邦準備理事会)を中心とする世界の中央銀行によって、前代未聞の介入が行われた。
そして、新型コロナ危機がダメ押しをした。パンデミックにより、世界経済の非金融分野である「実体」部門、すなわち商品やサービスの世界的な生産と流通についてもレジリエンスの欠如が露呈している。
「多くの企業はパンデミックのダメージを切り抜けた後に、効率性とレジリエンスの間で、よりリスク回避的なバランスを取ろうとするだろう」と、保険大手アリアンツの首席経済アドバイザーのモハメド・エラリアンは指摘する。
数十年にわたり企業に愛されてきた、費用対効果の高いグローバルなサプライチェーンと効率を最優先する在庫管理システムも、今後はリショアリング(国内回帰)など、よりローカルなアプローチに取って代わられるだろう。
経済学は少なくともアダム・スミスの時代から、物理的・財政的資源を効率的に配分する能力を自由市場の美徳と見なしてきた。
ただし、将来の効率性を追求するほど不確実性が高まるため、必然的に計画立案の範囲が狭くなる。企業の短期主義は、目先の株価に基づいて役員報酬が決まるという経営陣のインセンティブだけが原因ではなく、より一般的な投資判断にも影響を与える問題だ。高リスク高収益である研究開発と同様に、不測の事態に備えたレジリエンスへの投資も、目先の予測し得る利益を増やすために、最初に犠牲にされてしまう。
半導体戦争の厳しい現実
サプライチェーンの脆弱性に対する懸念は、米政府が発信する反中国の主張が示すとおり、国家安全保障に対する懸念へと変化して、さらに強固なものになっている。
とはいえ、正当性のない懸念というわけでもない。グローバル化の第2波の主な特徴は、アメリカのハイテクの製造拠点が主に中国へと、大々的かつ計画的にオフショアリング(事業の国外移転)されたことだ。
半導体、フラットパネルディスプレイ、さらには太陽電池パネルなどデジタル革命を担うハードウエアは、もはや米国製ではない。シリコンバレー草創期の象徴であるインテル社はマイクロプロセッサを米国内で製造しているが、それも現実を際立たせる例外にすぎない。そのインテルでさえ、世界一の半導体製造受託企業である台湾積体電路製造(TSMC)に後れを取っている。