世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業
THE RETREAT FROM GLOBALIZATION
このような状況では、米国内で競争力のある生産能力を再確立するために一貫した戦略を立てようとしても、容易ではない。しかも、米企業が効率性を求めてオフショアリングした製造分野は、ITのハードウエアだけではない。パンデミックで現実を突き付けられたとおり、フェイスマスクや検査キットの試薬などの重要な医療品も、大半が中国製だ。
「アメリカがリチウムイオン電池を中国に奪われた経緯を知れば、医療品の供給不足を理解できる」。調査報道で知られる非営利メディアのプロパブリカは今年4月、こんな挑発的な見出しで問題の核心を突いた。
記事によると、先進的な電池技術の先駆者だったA123システムズは、2009年に成立したアメリカ再生再投資法(ARRA)に基づいて米政府から2億4900万ドルの助成金を得て、さらにミシガン州から1億3500万ドルの補助金と税控除を受けた。しかし、2012年に経営破綻。同社の資産は中国のコングロマリットに売却された。
ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事が強調するように、コロナ危機の収束後は「BBB(ビルド・バック・ベター/より良い再建)」を目指す好機になり得る。
もっとも、多くの人はこのスローガンを低炭素経済への投資の招待状と受け止めるだろう。実際、気候変動について、第2次大戦に動員された野心と規模に匹敵する取り組みを求める声が高まっている。
ただし、気候変動との戦いでは、「何を」だけでなく「どのように」動員するかが重要になる。2009年の景気刺激策では、太陽光発電パネルメーカーのソリンドラもやはり米政府から5億3500万ドルの融資を受けながら、2011年に経営破綻した。
A123とソリンドラの破綻がもたらしたダメージは大きかった。アメリカでは、さらに多くの投資と技術革新の努力が行われる代わりに、政府の経済介入へのメディアの猛攻撃と党派的な非難が続いた。その結果、ソーラーパネルなどの最新技術の生産は、今や中国が支配している。
研究開発を支える「顧客」
思えば、デジタル革命の要素は全てが「メイド・イン・アメリカ」だった。関連する研究開発の大半が、米政府の資金提供を受けた米国内の研究所で行われたのだ。ただし、少なくとも同じくらい重要なのは、さまざまな米政府機関、特に国防総省が、商業的な採算が取れるようになるずっと以前からIT業界の最初の顧客になってきたことだ。
言い換えれば、かつてのシリコンバレーにはA123やソリンドラにないものがあった。短期的な投資利益ではなく、より広範で長期的なミッションに基づいて行動する顧客だ。イノベーションを支える需要の面で国の介入が復活しなければ、気候変動対策でアメリカが世界をリードすることはできないだろう。