最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業

THE RETREAT FROM GLOBALIZATION

2020年9月7日(月)11時10分
ウィリアム・ジェーンウェイ(ベンチャーキャピタリスト)

このような状況では、米国内で競争力のある生産能力を再確立するために一貫した戦略を立てようとしても、容易ではない。しかも、米企業が効率性を求めてオフショアリングした製造分野は、ITのハードウエアだけではない。パンデミックで現実を突き付けられたとおり、フェイスマスクや検査キットの試薬などの重要な医療品も、大半が中国製だ。

「アメリカがリチウムイオン電池を中国に奪われた経緯を知れば、医療品の供給不足を理解できる」。調査報道で知られる非営利メディアのプロパブリカは今年4月、こんな挑発的な見出しで問題の核心を突いた。

記事によると、先進的な電池技術の先駆者だったA123システムズは、2009年に成立したアメリカ再生再投資法(ARRA)に基づいて米政府から2億4900万ドルの助成金を得て、さらにミシガン州から1億3500万ドルの補助金と税控除を受けた。しかし、2012年に経営破綻。同社の資産は中国のコングロマリットに売却された。

ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事が強調するように、コロナ危機の収束後は「BBB(ビルド・バック・ベター/より良い再建)」を目指す好機になり得る。

もっとも、多くの人はこのスローガンを低炭素経済への投資の招待状と受け止めるだろう。実際、気候変動について、第2次大戦に動員された野心と規模に匹敵する取り組みを求める声が高まっている。

ただし、気候変動との戦いでは、「何を」だけでなく「どのように」動員するかが重要になる。2009年の景気刺激策では、太陽光発電パネルメーカーのソリンドラもやはり米政府から5億3500万ドルの融資を受けながら、2011年に経営破綻した。

A123とソリンドラの破綻がもたらしたダメージは大きかった。アメリカでは、さらに多くの投資と技術革新の努力が行われる代わりに、政府の経済介入へのメディアの猛攻撃と党派的な非難が続いた。その結果、ソーラーパネルなどの最新技術の生産は、今や中国が支配している。

研究開発を支える「顧客」

思えば、デジタル革命の要素は全てが「メイド・イン・アメリカ」だった。関連する研究開発の大半が、米政府の資金提供を受けた米国内の研究所で行われたのだ。ただし、少なくとも同じくらい重要なのは、さまざまな米政府機関、特に国防総省が、商業的な採算が取れるようになるずっと以前からIT業界の最初の顧客になってきたことだ。

言い換えれば、かつてのシリコンバレーにはA123やソリンドラにないものがあった。短期的な投資利益ではなく、より広範で長期的なミッションに基づいて行動する顧客だ。イノベーションを支える需要の面で国の介入が復活しなければ、気候変動対策でアメリカが世界をリードすることはできないだろう。

【関連記事】パンデミックで停滞した物流に効く、唯一の起死回生策

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BBC理事長、トランプ氏の訴訟に「断固闘う」と表明

ワールド

米SEC、株主提案の除外審査を一時停止 アクティビ

ビジネス

ホンダ、北米工場24日から通常稼働 半導体不足で生

ワールド

トランプ氏、対ロ制裁法案に署名へ 最終権限保持なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中