世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業
THE RETREAT FROM GLOBALIZATION
経済や金融の極端なグローバル化が始まった20世紀末以降に、経済主体としての国家の権威が失墜したのは偶然ではない。「政府は問題の解決者たり得ない。政府そのものが問題なのだ」というロナルド・レーガン元米大統領の言葉は、この時代を見事に言い表している。
レーガンや同時期にイギリスの首相を務めたマーガレット・サッチャーが国家の果たす役割を減らした結果、生まれた「隙間」を埋めたのが多国籍企業だった。以来、多国籍企業は外交・内政を問わず公共政策を通じて自身の利益を追求する力を高めていった。
こうした流れについてロドリックはこう書いている。「通商合意(の内容)は輸入関税や輸入割当量といった問題にとどまらず、知的財産や健康・安全に関する基準、労働基準、投資に関するルールといった制度や、そうした制度の国ごとの違いの整合化にまで踏み込むようになった。そして、一般に広く認められた経済理論になじみにくくなった」
その結果、「通商合意は保護主義を抑え込む効果をもたらすよりも、(政治家や官庁への働き掛けを通して)利益誘導を行おうとする企業や、政界との強いコネを持つ企業に力を与えているかもしれない」。
利益誘導型と言っても、これまでとは違う。該当するのは国際展開する銀行や製薬会社、多国籍企業だ。
現在のように国と国とが強気でぶつかり合う状況においては、自由貿易の名の下に利益誘導を追求しようとする動きを警戒し、それへの抵抗の高まりを期待するほうが理にかなっている。
未来を占う11月の米大統領選
脱グローバル化の最新局面では、各国の税制の違いを利用した多国籍企業による課税逃れが起きている。アマゾンやアップル、フェイスブックやグーグル、マイクロソフトといった巨大テクノロジー企業が最たる例だ。実際に利益が発生した国から税率の低い国へと故意に利益を動かすことが可能だという事実は、デジタル革命がもたらした厄介な副産物の1つと言える。
近年、IMFやOECDは多国籍企業に対する課税の国際的な枠組みをつくろうと各国政府に協力を呼び掛けている。フランス政府は各国に先駆けて巨大テクノロジー企業への税制を提案している。こうした動きは従来とは異なる形のグローバル化につながるだろう。例えば、異なる国や地域で計上された売上高(利益ではない)に基づいて最小限、徴収が可能な税額を定める政府間合意が生まれる可能性がある。