菅義偉、政権の大番頭から頂点へ 問われる宰相の力量
安倍晋三首相(65)の右腕として戦後最長の政権を支えてきた菅義偉官房長官(71)が、次期総理の座を手にする最短距離に浮上してきた。写真は国会の議場内で話す安倍首相(左)と菅官房長官。2014年2月、東京で撮影(2020年 ロイター/Yuya Shino)
安倍晋三首相(65)の右腕として戦後最長の政権を支えてきた菅義偉官房長官(71)が、次期総理の座を手にする最短距離に浮上してきた。
幾多の難題を巧みにさばいてきた政治手腕、官僚組織への強いにらみ、冷静な物言いからうかがえる安定感。どれをとっても政権の大番頭として高い評価を集めてきた菅氏だが、日本を率いる宰相としての思想性や政治スタンスは明確な輪郭がつかみにくい。
禁欲さで知られるたたき上げの政治家はどのように権力への階段を上り、安倍後継の重責に挑もうとしているのか。
二階氏とのたたき上げの絆
安倍首相が突然の辞意を表明する約1週間前の8月20日夜、菅長官は、都内のホテルのVIP用個室で、自民党の二階俊博幹事長(81)と会っていた。ともに有力政治家の秘書から地方議員へと、たたき上げの苦労を重ねた経歴を持つ2人は、「お互いに、親分にはかわいがってもらったな」と昔話に花を咲かせた。
この席に唯一、加わった政治評論家の篠原文也氏はこの会食について、二階氏が「菅さんとの関係を重視しているということを外向けに知らしめる、また菅さん本人に対して、あなたを大事にしているんだぞ、ということをわからせる。そういう意味があった」と話す。2人は6月と7月にも会食していたという。
二階氏は安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選に向け、早々と菅氏への支持を表明した。二階氏と菅氏は、安倍首相を始めとする世襲議員とは違い、親の七光りがない党人政治家として共通項を持つ。党を牛耳る幹事長である二階氏の強い後ろ盾を受け、菅氏は首相後継の有力候補と見られていた岸田文雄党政調会長、地方党員の支持でトップに立つ石破茂元幹事長に大きく水をあけ、14日に行われる総裁選挙での勝利が確実視されている。
篠原氏によると、会食の中で菅氏は「二階さんが幹事長として党内をきちんとグリップ(統率)してくれている。そのおかげで今の政権(運営)が非常にやりやすい」と二階氏を持ち上げた。政権運営について、政府と自民党がそれぞれの立場から協力しあう関係を確認するような雰囲気だった、と篠原氏は振り返る。
ゼロからの政治家スタート
総裁選出馬を表明した2日の会見で、菅氏は約7年8カ月にわたって安倍首相とともに進めてきたアベノミクスなど基本政策の継承を表明。独自の路線を示すことなく、安倍氏の後継者としての姿勢を鮮明にした。
そして、菅氏は「私の原点について、少しだけお話をさせていただきたい」と、秋田県の農家に生まれた生い立ちを話し始めた。