最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

新自由主義が蝕んだ「社会」の蘇らせ方

“COMMON” CAN WIPE OUT NEOLIBS

2020年8月29日(土)17時30分
河野真太郎(専修大学教授)

現在、医療や食品販売などの「エッセンシャル・ワーク(不可欠な労働)」が耳目を集めている。私たちの生活がいかなる共有(コモン)の物資や労働に支えられているかが、改めて浮き彫りになったのだ。そして、言語を基礎とするパブリックなものに対して、コモンは言語(そして国民国家)の枠には必ずしもとどまらない。

そのコモンとは例えば自然環境だ。新型コロナの出どころはまだ確定していないが、2000年代以降繰り返している豚インフルエンザや鳥インフルエンザは、工業化されて伝染病に対して脆弱な集産畜産業(factory farming)を原因としていると専門家は指摘する(英ガーディアン紙、4月20日)

アレクサンドリア・オカシオコルテス米下院議員らが提唱するグリーン・ニューディールは、環境と福祉を同時に解決しようとするという意味で、中・長期的な「コロナ対策」たり得る。しかし、その政策はアメリカ一国の枠を越え出る必要がある。環境に働き掛ける第1次産業の在り方とパンデミックの頻発に深い関係があるとすれば、その解決は、産業と自然環境が、グローバルな水準で「われわれのコモン」であるという認識からしか生じ得ないだろう。

その場合の「われわれ」は、特定の国民ではなくグローバルな市民と言うしかない共同体である。私たちは「福祉国家」ではなくグローバルな共同体/社会の福祉を想像し直さなければならない。

社会は(いまだ)存在しない──ジョンソンのせりふとは裏腹に、私たちの出発点はそこなのである。

<2020年9月1日号「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

【関連記事】コロナでグローバル化は衰退しないが、より困難な時代に突入する(細谷雄一)

20200901issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中