副大統領候補ハリスが歩み始めた大統領への道 バイデンが期待する次世代政治家の「力」
Harris to Be a Powerful Veep
なかでも最強と評されたのがチェイニーだ。彼は大統領に2003年のイラク侵攻を決断させるために手段を選ばなかったし、いわゆる「テロ容疑者」に対する強引な、後に「拷問」と呼ばれることになる尋問手法も採用させた(ちなみにバイデンは、かつてチェイニーを「史上最も危険な副大統領」と評している)。
副大統領の認知度が上がったのは、東西冷戦と「核のボタン」のせいでもある。毎日が一触即発の日々になったから、いざというとき大統領職を継ぐ者にも臨戦態勢が求められるようになった。
未熟でも必要な存在
しかし、本当にバイデンは彼女に一定の政策権限を委ねるつもりだろうか。大いに疑問だとする声もある。経験に関する限り、ほとんどの分野でバイデンはハリスより抜きん出ているからだ。
「ハリスは上院議員としての経験がとても浅い」と、バイデンと親しいホルツェルは言う。「だから彼が重要な国内問題や議会対応を彼女に任せるとは考えにくい」
オバマとバイデンの関係は逆だった。新人上院議員だったオバマは、副大統領候補に選ぶ前からずっとバイデンに助言を求めていた。
例えば2008年春に、イラクの治安状況や駐留米軍についてデービッド・ペトレアス米軍司令官を召喚した公聴会で、米軍撤退についての「期待値を引き下げる」よう、オバマ上院議員(当時)に助言したのはバイデンだった。
この公聴会でオバマは「資源に限りがある状況では目標を控えめに設定しなければならない。私は何が何でも軍を撤退させろと言っているのではない。しかるべき着地点を見いだしたいのだ」と発言し、メディアの称賛を浴びた。後にバイデンは筆者に、あの文言は一言一句、自分が提案したものだと明かしている。
バイデンには上院議員としての長い経験(初当選はまだベトナム戦争の真っ最中だった)と、その中で築いてきた多くの人脈もある。そうであれば、議会対応でも彼自身が主導的な役割を果たすことになるとみていい。
しかし今は、アメリカ社会が人種や性別で深く分断されている時代。アイルランド系白人のバイデンにはハリスの力を借りたい理由がある。まずは選挙戦で1人でも多くの黒人を投票所に連れてきてほしい。その後は人種や経済格差で引き裂かれた社会の傷を癒やす役割を担ってほしい。
だからこそ、バイデンはこうツイートした。自分がハリスを選んだのは、彼女が「弱者のために闘う恐れを知らぬ戦士」だからだと。
<2020年8月25日号掲載>
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