最新記事

事件

深まるベイルート大爆発の謎 原因となった硝酸アンモニウム、所有者は誰か?

2020年8月15日(土)12時42分

貨物船は無保険だった

ロイターの取材で不審な点がいくつも浮かび上がった。

海運業界の慣行や一部の国の法律では、商用船舶は環境被害、死者や負傷者の発生、流出事故や衝突などに備えて保険に入る必要がある。しかし事情に詳しい関係者2人によると、ロサスは保険に入っていなかった。

ロサスのロシア人船長はロイターの電話取材に、保険証書を見たが、本物とは保証できないと述べた。ロイターはロサスの保険証書の写しを入手できなかった。

硝酸アンモニウムを発注したモザンビークの爆発物メーカーの広報担当者によると、同社は当時、代金着払いに同意しただけで、硝酸アンモニウムの所有者ではなかった。

硝酸アンモニウムを製造したジョージアの肥料メーカーは既に解散している。当時オーナーだった実業家はロイターの取材に、2016年に硝酸アンモニウム製造工場の経営権を失ったと述べた。英国の裁判所の記録によると、同社は16年に債権者によって競売に掛けられた。

現在この肥料工場を経営している別の会社の幹部は、問題となった硝酸アンモニウムの所有者を明らかにできないとしている。

モザンビークの爆発物メーカーの注文を取り扱った商社はロンドンとウクライナで登記されているが、同社のウェブサイトは閲覧不能となっている。同社が登記しているロンドンの住所を訪ねたが、当該の住宅には鍵が掛かっており、ドアをノックしても返事はなかった。

ロイターは同社の経営幹部に接触したが、この幹部は質問に答えるのを拒否した。

この商社の内情に詳しい関係者によると、同社は旧ソ連諸国産の肥料をアフリカの顧客に販売していた。

船舶にも不具合

爆発で多くの死傷者が出て、反政府デモが起きたことから、レバノン政府は既にロサスとグレシュキン氏に捜査の矛先を向けている。治安当局者によると、6日にはグレシュキン氏が自宅で硝酸アンモニウムについて尋問を受けた。

ロサスの船長によると、同船は2013年11月にベイルートに到着した際に、既に燃料漏れを起こしており、全体的に船体の状態が悪かった。

船舶の記録によると、ロサスはドアの不具合、デッキ部分の腐食、補助エンジンの不調などが見つかり、ベイルートに寄港する4カ月前の13年7月にスペインのセビリアで、港湾当局により13日間の航行停止処分を受けていた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中